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フリーランスになって経験したトラブル

IT業界は新しいように見えても実際には汎用機の時代など含めてもう数十年の歴史があるわけですから、それなりに古株な人たちもたくさんいます。また他業種から流れてくる人も大勢いるので、決して特殊なタイプの人間の集まりではありません。したがって、どこの業界にもいるゴロツキや詐欺師、ヤクザや社畜、セールスガイはこの業界にもちゃんといるのです。

もっとも、貴方がよっぽどのエンタープライズ系の仕事をしているのでなければ、そんなにすごい大物な人に出会うことはありません。筆者のような零細の技術者であれば、巡り会うのはせいぜいケチな小悪党くらいのものです。こんなのに手こずるとは余っ程ダメ人間なんだなと笑われそうですが、これから同じような目に遭うかもしれない人たちのために、フリーランスになって出会った困った人たちについてまとめておこうと思います。ちなみに筆者は自分でコンテンツを立ち上げてそれで食べているわけではなく、受託案件で生活をまかなっているので、企業や企業の担当者との話に限定されます。

正直、恥をさらすようなものですが、それでも何かの教訓になればいいと思うので書いていきます。それにしても、トラブルのほとんどが「受注/発注処理があいまいである」ことが原因だったのがなんともいえません。

(1)受発注処理がきちんとしていない隙を狙う

営業と開発を同時にこなすのはなかなか大変なので、どちらかがおろそかになりがちです。通常、受託案件は見積りから営業の交渉があり、金額が決まって案件の発注、受注という流れになりますが、例えば知人やクライアントの紹介などで担当者同士で話がまとまり、正式な手続きなしで仕事が始まることもあります。そんな場合でも、見積りを出すこと無しに仕事が始まることは経験上一度もありませんでしたが、逆に受注と発注の処理は省略されるか後回しになることが結構ありました。

しかし、残念なことに、この手のケースは大抵後で問題が起きました。

例えば、ある開発案件では、新規案件のために200万の見積りを提出しました。B2Bのサイト構築で、内容はオーソドックスなウェブサイトなのですが、短期間での開発が求められるためRuby on Railsでの構築を提案したところ、特に問題ないとのご回答を頂き、何度か打ち合わせた後、スケジュールや素材が届いたので初期開発まで完了しました。正式な発注処理はなかったのですが、前に同じクライアントの別案件を請け負っていたこともあり、その流れで他とコンペになってもいなかったので、その辺りの処理は相手方にお任せ状態でした。開発は特に滞りなく進み、期日にも間に合ってめでたしめでたし、となるはずでした。

ところが、その後案件は二転三転します。サイト規模から事業計画まで、クライアント側で次々と変更が発生し、サイト自体がオープンしません。途中大きな変更が入り、結局、4ヶ月後になってやっと検収が完了したのですが、ほぼ同内容のものを二度構築するような目に遭いました。それでも、終わってしまえばまあよしとしましょう。残るは請求などの事務処理だけです。200万の案件ですから、以前会社に所属していた頃はなんでもないような金額ですが、フリーランスにとっては大金です。さらに、来年早々に出産を控える家庭にとってはありがたい話です。トータルで二ヶ月くらいは働いたので、報酬としては悪くありません。

しかし、この段になって急に呼び出しをくらいました。一次受けと筆者の間に入っていた業者が金額の調整がしたいというのです。なるほど、実はこの案件、最後になって要件の追加があり、その分については後日開発となっていました。しかし追加分については、当初の見積りの金額でカバーしても問題ない規模だったため、特に追加請求はしないことにしました。そのため、総額が支払われなくても追加分を除いた分でいったん清算する方が、追加分の検収を待ってまた支払いが延び延びになってしまうより余っ程ありがたいくらいだったのです。ところが、待ち合わせ場所で聞いたのは意外な話ばかりでした。開口一番、この案件の見積りは幾らだったのかと質問されました。見積りを提出したのはもう何ヶ月も前のことです。しかし出したことには変わりはないのですから、それを忘れたというのは幾らなんでも失礼です。何かあるぞと、今は手元にないので確認したいと返答したところ、その場で実際の稼働状況について聞き取り調査をされました。おおまかなところを答えたのですが、先方の担当者は渋い顔をしています。そして、おもむろに紙を取り出して計算を始めると、顔を上げて「これじゃ厳しいですね」と言い出しました。「あなたの日当が3万円として、総額にすると約70万円、でもこれだと予算を越えちゃうんだよね」「予算?予算って幾らなんですか?」「30万円」

驚きました。まず、なぜこの人がこちらの日当を勝手に決めて計算しているのかがわかりません。業界の相場というものがあるのかもしれませんが、それはそれ、こちらの見積りは見積りです。だいたいバイトじゃあるまいし、そんな日当で仕事をするつもりなど毛頭ありません。それから、なぜ今頃予算の話になるのでしょう。それに納品してから金額を調整するというのはいったいどういうことでしょうか。もう、わけがわかりません。業務の中にはサーバ構築など技術料をプログラム開発とは別にしたい項目も含まれるので、単純に日雇いの計算などされるいわれはありません。そもそも見積りと全く関係のない、しかも恐ろしいほど低い金額で話を進めようとする意図が理解できません。

「ちょっと待ってください、最初にこちらから提出した見積りがありますよね?その金額は200万円です。それでOKというお話だったので作業を進めたんですよ。そこに交渉の余地なんかありません。そもそもこの金額は案件の費用の総額の何パーセント分なんですか?」

「それは確認していない」

「だいたい、この金額の案件なら、最初から受注なんかしていませんよ。もちろん、信用していたからといって受発注をきちんとしなかったこちらにも非があります。なので、まずあなたのおっしゃる金額というのは、お客様が開発は何パーセント納品/検収済みで、それに対して総額の何パーセントをお支払いするとお考えなのか確認してください」

「確認しましょう」

「それもわからないということなんですね。これが総額という可能性もあるということですか?」

「確認しましょう」

「(絶望して)今後の開発については、正式な受発注手続き無しには一切進めません。それはご理解ください」

こんな不毛なやり取りだけで打ち合わせは終了しました。この規模の案件ですから、それなりの準備や他のクライアント様とのスケジュールの調整も必要になります。年間で受注する仕事の量もこの見積りをベースにしているわけですから、それが大きく計画と異なることになってしまいます。言い方は悪いですが、これは立派な詐欺です。ソースコードの引き上げも含めて現在いろいろ検討しているところです。

というわけで教訓。大人は信用なんかで仕事を進めてはいけません。営業職には基本中の基本でしょうが、開発の人は忘れがちなので書いておきます。受注、発注は双方でハンコを押した書類が揃って初めて完了です。それまでは開発に着手してはいけません。

(2)業務内容が全て記載されていないのにつけ込む

見積りが複雑になり、案件が当初の規模からころころと変わって何度も見積りを出し直すことになった経験はあるでしょうか。ここに問題が発生する隙が生じることがあります。何度目かのやり取りを経て「では、最後にAndroidとiPhoneのアプリ開発、両方の見積りをください」そんな依頼で提出した二通の見積りで開発が開始された案件で、開発終了後に請求を送ったところ、いや、片方の分しか発注していないと突き返されたことがありました。そういうつもりじゃなかった、とは担当者の弁ですが、意図がどうこうという問題ではありません。しかし、確かに見積書には「スマートフォン向けアプリ開発」と書かれているので、完全に間違っているとはいえませんでした。それはそれで、こちらのミスではあります。片方分の支払いは滞り無く、また担当者に謝罪はされましたが、それでもこちらとしては大損しただけなので非常にがっかりしました。

要件が完全に定まっていない場合、変更要求にどこまで応じられるかの案分も大事です。営業の人は仕事を取ることに必死ですから無茶な要件をねじ込むことも珍しくはありません。携帯サイトを開発していたつもりが、いつの間にかPCに対応し、スマートフォンに対応し、挙げ句の果てには店舗据え置き機器からFelicaで認証する機能まで実装せざるを得なくなった案件がありましたが、この手の話はザラにあります。いくつかの機能は別途費用を請求できましたが、他は営業に押し切られました。別の案件では管理画面の機能がいくつか後になって追加されてしまい、別途請求しようとしても「いや、みんな頑張ってるんですから」と妙な説教をされる始末。

さらに難しいのが、社会人は他人に親切をするのは決して正しいことではないという問題があります。何かトラブルを起こした人がいたとして、親切心から対応してあげるとします。例えば要件定義が下手で必要な機能が含まれていなかった場合、仕方がないので追加費用無しで開発してあげると、その人もきっと喜んでくれるでしょう。ところが、社会人というのは親切を親切で返していたら上司に怒られてしまいますので、こちらのミスで何か実装が抜けていたりなんかした場合には、途端に手のひらを返して責めてくるのが普通です。社畜たるもの「上司>>>>>>>>>>客>>>越えられない壁>>>>下請け」という序列を骨の髄にまでインプットしているのが当たり前なのですから。また、そもそもトラブルを起こす人というのは、それなりの理由(無能、怠惰、口に出すのもはばかられるほどの悲しい理由など)があるのですから、この次もまた何かやらかす可能性は高いはずです。今回はたまたまそれがこちらが親切にすれば収束するものであったとしても、この次はそうはいかないかもしれません。そのとき、この人が言い訳として問題をあなたのせいにしてしまうことはあり得ないでしょうか。下請け業者のせいにすることは社会人にとってアリを踏みつぶすくらいの良心の呵責しか感じられない行為だということを理解しておく必要があります。

(3)損失を弁済させようとする

企業間の取引であれば、基本契約やNDAなどは事務型の基本的な作業ですが、フリーランスのプログラマの場合、その手の作業はクライアント側で用意してもらうことも多いかと思います。または、そもそもそんなやり取りもなく開発して納品するケースもあるでしょう。

しかし、基本契約を結ばずに業務を請け負うと、トラブルが発生した場合に面倒なことになります。例えば、よくある契約にはソフトウェアのトラブルが原因で発生した損失については受注金額を補償の上限とする、みたいな条項が含まれています。これがないとどこまで責任を負うべきか不明確になり、裁判になると個人はどうしても弱いので負けることになります。また裁判にはならなくても、下請け業者というのは弱い立場なので無理な要求を飲まされることになってしまいます。クライアントとの間に別の業者が挟まっていたりすると余計にそうなることが多いでしょう。

というわけで、フリーランスの開発者には、ガチガチな契約か、損をしても知らんぷりする余裕のどちらかが求められます。

Posted by on 12月 22, 2011 in Work

Comments

  • […] る頃よりはずっとマシだとはいえ、当初思っていたほど稼げたわけでもないですね。ナイスな未回収金を発生させてしまったこともあり、終盤になって年収が大幅に減ってしまったのが […]

  • 詠み人知らず より:

    web開発って儲かるんだなぁ。
    うちらじゃ、書籍を丸ごとデザインから入稿までやって販促のチラシまで作ったところでせいぜい40〜50万、これが1.5ヶ月〜2ヶ月フル稼働。
    契約なんて結んだことないし、正式な発注が出る前から当然作業開始。
    作業終了後に見積もりを出して、さらにそこから値引き、最初小野金額は大抵ウルトラどんぶり勘定wだぜ。

  • […] いるのです。 もっとも、貴方がよっぽどのエンタープライズ系の仕事をしているのでな 続きを読む カテゴリー: IT   パーマリンク ← HTMLファイルをアップロードすると、使われ […]

  • 新米フリーランサー より:

    今僕も信用していた人からの紹介案件(紹介者も立ち会い&作業の窓口)で、詐欺られて胸を痛めてるところでしたので、非常に共感できました
    契約書はしっかり済ませてからやらなければ取り返しのつかないことになるなとよい勉強になりました。

    たかい勉強代でしたが…

  • asa より:

    とても参考になりました。業種は違いますが、フリーランスとして仕事をしています。信頼の上で、契約条件が曖昧なまま進めていたところ、未払いが起きそうになっています。納品の翌月末に支払いだとどうしてもこちらの立場が弱く、泣き寝入りするしかありません。入金確認後に作業開始するなど、今後の対応を考えようと思っています。

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