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2010年のオークランド・アスレティックス

昨年、大物たちを放出して再建モードに入ったところから俄然調子が良くなり、後半の勝率が5割を達成していた不思議の国のアスレティックスは、その教訓を活かして今年に入っても売り飛ばすためだけに取るような大物の獲得はなく、現有戦力の底上げという、弱小チームのくせにいっちょまえな戦略でシーズンに臨んだ。目立った補強は、トミー・ジョン手術で1年のブランクがあるため格安になっていたベン・シーツ、カンザス・シティーで怪我のためほとんど出場出来ず格安になっていたココ・クリスプ、エリック・チャベスが出場できないサードの補強にサンディエゴに兄がいるスコット・ヘアストンを放出して穫ったクーズマノフ。実は最後のクーズマノフのトレードには別の秘策が隠されていたのだが、それは後述する。というわけで、今年の補強は非常に地味だった。

一方、どんなに頑張って選手を揃えてもいつものように大盛況だったのが故障者リストで、今年戻る予定だったジョーイ・デヴァインとジョシュ・アウトマンは帰らず、鬱病からの復帰が期待されたデュークシェラーも好調な出だしから一転ケツの手術で以降は戻らなかった。コナー・ジャクソンも故障品を売りつけられただけに終わり、トラヴィス・バックもフェンスにぶつかった後遺症による謎の頭痛というイヤな理由でリストに入り浸り、そして元ロッテのマット・ワトソンに至っては独立リーグを経て念願のメジャー復帰がかなったその月に結石で入院という悲惨な結果に終わったのだ。悪い話は続く。前半こそ小気味よくホームランを放っていたカート鈴木(キヨシくん)は終わってみれば過去3年間で最低の打撃成績となり、今年から年鑑の1ページ丸ごと使って紹介されるスターになる予定だったライアン・スイーニーは手術で脱落、昨年の打率3割のデイヴィスは今年は出塁率3割で終わりそうだ。

だが、われわれファンの心に最も重くのしかかったのは、チームの最高のスター選手であるエリック・チャベスがいよいよダメだという事実である。今年はチャベスがファーストミットを持ってDHと一塁を守ることになっていた。つまり、ゴールドグラブを何度も獲得していたこの名手が度重なる故障により遂にもうサードは守れないという事実を受け入れたのだ。チャベスの怪我はそれほどまでに深刻だったのか。2年のほぼ完全なブランクから、ようやくバットを振れるまでに復調して臨んだ今シーズンだったが、しかし結果はひどいものだった。最終的には、夏を待たずにDL入りして、そのまま契約最終年のシーズンは閉幕してしまった。このまま引退は避けられないだろう。年俸10億円を2年続けてドブに捨てることになったチームの財政事情よりも重たい現実である。

アスレティックスに決定的に不足しているのは、中軸打者である。年間20本塁打を期待できるバッターが皆無では、どうしても見劣りする。強力な投手陣が揃うだけになおさら深刻だ。

ピッチャーは相変わらず素晴らしかった(ヤンキーズみたいなチームが相手でもなければ)。今年大ブレークしたのがトレヴァー・ケーヒル、通称ホワイトラビット、突如として高校生をドラフト上位で指名するという方向転換を見せたアスレティックスが去年2Aから大抜擢した右ピッチャーだ。高校3年でピッチャーに転校したというこの22歳は、それほどの豪速球があるわけでもないが、とにかくひたすらシンカーを低めに集めてゴロを打たせる投球が身上だ。シーズン前は「高めに浮くとホームラン」と評される程度の期待しか集めておらず、それどころか開幕時点で故障者リストに入ったいたのだが、蓋を開けてみればなんと20試合連続で相手を6安打以下に抑えるというノーラン・ライアン以来の大変地味だが感じのいい記録に並んでしまったのである。

ケーヒルのお陰でかすんでしまったが、ジオ・ゴンザレスの成長にも目を見張るものがある。コントロールが悪い悪いと言われ続け、まあ実際今年も2イニングに1つは四球を与えているわけだが、それでも、まあ、その、それくらいにはなったので、奪三振163、二桁勝利に防御率3.35という成績で一年間ローテーションを守り続けた。それから、母の日に何かイベントがあったらしいが、それ以降長い長いトンネルに入ったまま出て来られなかったダラス・ブレイデンも、これで中継ぎ稼業に戻ることはないだろう。

そう、いま勝てなくて若い選手が多いので、未来の展望だけはやたらと明るい。大砲クーズマノフ(なんといっても今年はチーム1位のホームラン15本!35じゃないよ!45でもないよ!)を獲得した比較的大きなニュースの陰で、実はアスレティックスは未来の秘密兵器を獲得している。エリック・ソガード、アリゾナ州立大出身の内野手である。近年々のジャリーガーを排出しているアリゾナ州立大学はチビの内野手の量産体制に入ったらしい。何が素晴らしいかというと、今年のトリプルAの成績をみるとこのバッターはほぼフル出場して三振より四球の方が多く、出塁率が非常に高い。そして眼鏡をかけていて公称177cm、たぶん170そこそこという小さい選手なのでほとんど他のチームから目をつけられない(そんな選手をドラフトで穫ったサンディエゴは偉い、さすがポール・デポデスタ)。世界で一番地味で過小評価されている(からアスレティックスにいる)名手マーク・エリスもこのところ怪我が多く、年齢的にももうすぐ下り坂になる。次代の地味な名手としてソガードには要注目だ。

そして、いよいよである。デヴィッド・ジャスティス、フランク・トーマス、マイク・ピアッツァ、スコット・ハッテバーグ。アスレティックスが得意とする、選球眼に優れたかつての大砲、落ち目になったスターを指名打者として1年かそこいら使って長打力不足を補い、かつこの世界で長生きしたけりゃボールを選べと選手たちに教えるための生きた教材としてベンチに置くという戦略に、ちょうどぴったりな選手が、度重なる怪我によりついに金満球団から放出されようとしている。

というわけで、来年もアスレティックスは要注目だが大変地味である。

Posted by on 10月 1, 2010 in Baseball

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