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「マネーボール」その後

いよいよ映画化される「マネー・ボール 」だが、当時の登場人物たちのその後はどうなっているのだろうか。

ブラッド・ピットがその役を演じるという、主人公たるビリー・ビーンは、今もオークランド・アスレティックスジェネラルマネージャだ。一方、その右腕として活躍する統計屋ポール・デポテスダはドジャーズのGM、パドレスのスタッフを経て今年からニューヨーク・メッツのフロントに入ると発表された。なんと、メッツのGMはかつてビリー・ビーンの上司でもあったサンディー・アルダーソンセイバーメトリクスをいち早く導入したことでも知られるオークランド・アスレティックスの元GMだ。それだけではない。元ビリー・ビーンの同僚でトロント・ブルージェイズの再建を託されたJ・P・リッチアーディも今ではメッツのスタッフとして勤務している。

上のリンクのほとんどがWikipediaであることからもわかるように、マネーボールの当事者たちはこの10年で一定の評価と知名度を獲得している。パドレスはプレーオフ進出まであと一歩のところまで勝ち進み、パッとしないように見えるブルージェイズも実はこの8年間の成績をみると5回勝ち越しており、その内2度は10以上の貯金まである。同地区にレッドソックスとヤンキーズ、レイズという強豪を抱える悲惨な境遇にしては上出来といえる。ボルチモアが負けすぎるのも悪いといえば悪いのだが。

その一方で、我らがビリー・ビーンはというと、2007年以降続いた負け越しこそ免れたものの、2010年は首位テキサスに大きく水をあけられた2位、2006年を最後にポストシーズンへの進出は果たせていない。かつては冷遇されていた統計情報重視、セイバーメトリクスを球団運営に取り入れたいわゆる「新思考」のチームが勢いを増す一方、その先駆者としてのアスレティックスは近年、かつて標的にしていた古くさい野球の常識に加えて、新たな傾向であるセイバーメトリクスを駆使したチームにも対抗する必要が生じている。つまり、自分たちの影に追われてきたのがアスレティックスのこの3年間だったといえる。

よくある誤解に、セイバーメトリクスを利用した評価こそが低予算で最も強いチームを作る方法だというものがある。もちろん、それは嘘で、選球眼と長打力がトレンドであるなら、選手の代理人たちはこのふたつの能力を備えた選手を高く売ろうとするのは自明だ。そうなると、当然ながらオークランドのような低予算のチームでは理想的な選手をそろえることは難しくなる。だいいち、どんな指標を適用したところで、全盛期のデレク・ジーターアレックス・ロドリゲスは非常に高いスコアを叩き出していたのだ。元来、統計情報を駆使するのは、他球団が見逃している選手を発掘し、低予算でも勝つための手段であった。だから、周囲が同調するのであれば自分たちは急いでそのトレンドの裏をかく必要がある。そんな涙ぐましい努力こそが、ハードな野球ファンを喜ばせるのだ。

ここ数年のオークランドの選手の特徴として、まず目立つのが、かつてはどうでもいいとされていた守備能力の重視と、走力の向上だ。セイバーメトリクスがMLBを席巻するにつれ、選球眼のいい長距離打者の価格は跳ね上がっている。一方で軽視されているのが守備と走塁であり、どうやらアスレティックスは近年、この二つを利用して対抗するプランを模索しているようだ。盗塁数ではリーグのトップ20に3人が入り、移籍して来ると決まって生まれて初めて守るポジションにされる(スコット・ハッテバーグがファースト、レイ・ダーラムがセンター)と悪評高い守備の軽視も改善され、ゴールドグラブ級の選手が半数以上を占める日もある。マーク・エリスケヴィン・クーズマノフの守備が過小評価されてタイトルを取れないのは、おそらく所属チームのイメージが悪いせいだろう。

それに、かつて超高校級のスターとして華々しくプロ入りしたものの、次第にやる気を失っていった自分への反省から、大学卒業者しかドラフトで指名しないという方針でドラフトに臨んでいたビリー・ビーンの主義も撤回されつつある。2008年に18歳のYnoa(またはInoa)とラテンアメリカの新人として最高額で契約(あー、今年トミー・ジョン手術を受けました)した他、今年は18勝してオールスターにも選ばれ大ブレークしたトレヴァー・ケーヒルも高校生でドラフトされた。さらには、今年はなんと16歳のドミニカ出身の外野手と契約したとも報道されている。

このような戦略の転換が、果たして長期的なプランに基づくものなのか、それとも各チームがかつてオークランド・アスレティックスが採用し高い実績をあげたその戦略をパクり、磨き上げてきたのに追いつめられて足掻いているだけなのか、実際のところはまだはっきりとはわからない。だが、今のところ徹底して守備がよく足の早い選手を集めているのは間違いない。どんな素人からも長打力不足を指摘される状況で、岩隈を競り落としたお陰で余った先発候補を放出し、交換相手として獲得したのも俊足、好守のデヘススだった。相変わらず強力な投手たちをどのように活用していくのか。2011年に向けた補強が始まり、メッツの再建が進むにつれ、本家本元としてのアスレティックスの動向には相変わらず要注目なのだ。

Posted by on 11月 12, 2010 in Baseball

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