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PiL ワールドツアー最終日

今日がPiLのワールドツアー最終日で、サマーソニックに出演した翌日に単独公演を予定している、と知ったのが昨日のこと。まずこのtweetで来日していることを知り、公式サイトを見たら単独公演もあるというので、今朝は6時から仕事して夕方までに全て終わらせ、馳せ参じることにしました。

PiLを聴きたい理由ですが、大前提として、ぼくはSex Pistolsでは一番DQNっぽくないジョン・ライドンが好きなのです。それをふまえた上で、さらに今、自分の人生にちょっとした転機が訪れており、それからPiLはこの世でほとんど唯一かもしれない、聴いても腹が立たずにちゃんと励まされる「元気を出して」ソングを演奏するからです。Riseという曲をご存知でしょうか。そうですか。へえ、よかったね。この曲には、なんというか、元気を出してソングにありがちな、泣いている美女をイケメンが歌いながら慰めるビデオクリップとか、キューンと鳴るギターとか、そういうのはぜんぜんありません。歌詞も、正しいかもしれないし、間違ってるかもしれない、と逡巡してばかりで、歌われる人の状況もあまりいいとはいえません。でも、唐突に、May the road rise with youとコーラスが入ります。日本語でうまく言い表すと、高村光太郎の道程みたいな感じでしょうか。まともな人間であれば、自分はいかに恩寵や無償の愛に値しないかはよーくわかっているので、こんな風にいきなり全肯定されてしまうと、急にヤクザに優しくされた情婦みたいにヨロッとなってしまいます。そして、そんな優しいジョンおじさんの歌は、今度はびっくりするようなストレートな物言いに変わります。「怒りはエネルギー、怒りとは何か、怒りとはエネルギー!」ああ、やっぱりジョンおじさんは優しい顔をしたヤクザだったんでしょうか。

この目で確かめるべく、新木場のスタジオ・コーストに足を運びました。

漁師の網みたいな背景に浮かぶロゴ

スタジオ・コーストは初めてでしたが、クラブです。クラブチッタとか、そんな感じのところとキャパは同じくらい。ドリンクカウンターとグッズコーナーは長蛇の列です。年齢層も高めなので、みんな金持ってんでしょうね。ライブは定刻に始まりました。ジョン・ライドンはもちろん、他のメンツはHappy?とかの頃からいるギタリスト、プロっぽいベースの人、The Pop GroupやSlits(亡くなったジョン・ライドンの義理の娘さんのバンドですね)のドラマーが登場。いきなり3弦の変な楽器で「This is not a love song」が演奏されます。PiLのライブですが、ぶっちゃけ似たような曲が多いのと、曲の構成があってないようなものなので、適当なところまで演奏したらいきなり違う曲をメドレーでつないできたりします。しかも「Death Disco」は白鳥の湖あり/なしの2パターンをそれぞれメインとメドレーとして演奏します。「Poptones」や「Albatros」、「Memories」など、これでもかと代表的な曲を挟み込むので、よく考えたらPiLって長いキャリアでこんなに定番ソングを生み出してきたんだなと驚かされます。で、肝心の演奏ですが。すごかったです。はい。正直、昨日サマソニに出たばっかりだし、ジョン・ライドンももういい歳なんだから、あんまり大きな期待はしていませんでした。が、始まってみればものすごい演奏です。

セットリスト

PiLといえば、タイトなリズムにカリカリしたギターが適当に絡んでいるところにジョン・ライドンが思いついたところで叫ぶように何か歌うというイメージ(うわ、これって皮肉?)ですが、ライブで演奏されるとこんなにすごいとはちょっと思い違いをしていました。しかも、音がいい。1曲目でステージ上のP.A.の音を調整したりしていましたが、音が大きすぎず小さすぎず、バランスも素晴らしく本当に聴きやすいのです。もちろん、ジョン・ライドンはどんなにしっとりした曲でも決してちょぼちょぼ歌い上げるような真似はせず、常に叫んでいます。その勢いのすごいこと。トドと見紛うばかりの体型に成り果てたのに、逆にコメディアンとして開眼したのか、変なアクションを交えながらもジョン・ライドンはジョン・ライドンでした。おじいちゃん、もうちょっと手抜きを覚えて!と思わず心配になるほどです。

演奏の方も、ジャー・ウーブルとかがいると、なんかまた格好つけて喧嘩でも始めちゃったりしたら、おじいちゃんたち困ったものですね、なんてケースも考えられるのですが、この人たちに限ってそういうこともなさそうなので安心して演奏に集中できます。っていうかロックっぽいってかDQNくさい真似とかで話題になるガキ臭いロックバンドってよくありますが、そういうの興味ないんでほんとやめてほしいです。だったらキリスト教圏の最大のタブーとか女王の統治のひとつのピークである記念すべき年に女王をバカにする曲を発表したりしてみんなに嫌われて挙げ句の果てにナイフで手を刺されてギターの演奏ができなくなってしまったジョン・ライドンおじさんの尻の毛でも賜って植毛したらいいと思います。

話が逸れました。ときどきシーケンサーなんかも組み合わせて、タイトなリズムを刻むドラムとベースがあまりにも心地よく、せっかく来たんだからよく見とけばいいんですが、それでも目をつぶって聴くときの気持ちよさの誘惑には何度も負けました。そんな感じで、個々の曲のことはもうあんまりよく覚えていません。そういえば確かジョン・ライドンのソロ名義で出た曲もいくつか入ってきましたね。いずれにせよもうずっとふらふら踊りっぱなしです。「Open Up」をバンド編成で演奏すると妙に格好よかったりして、ハウスって人力の方がずっといいのかもしれませんね。展開とか長さとかはかなり適当らしく、途中でシーケンサーの部分が消えたりするのもよかったです。ギターは、ちょっとやることや演奏がロックっぽすぎて引くこともありましたが、元ダムドらしいので仕方がないと我慢していたら、3弦ギターとか弾き始めるものだからやっぱりよかったです。途中、ジョン・ライドンが「ちょっとタバコ吸ってくるね」と休憩を挟み、アンコールで遂にRiseが始まりました。

感想ですが、レコード会社もなく、こんなにひっそり来日しているPiLの演奏がここまで凄いとは、全く予想だにしなかったことなので、ジョン・ライドンがいうことなら全て受け入れられる気になりました。っていうかジョン・ライドンってこんなにいい人なの?世界ツアー最終日ということで、バンドメンバーはもちろん、ローディーからマネージャー、さらにはサウンドエンジニアや照明まで紹介してステージに上げ、さらには「えー、自己紹介とかってー、ジョンってちょっとシャイだからー、え?やるの?ホント?じゃあ照明さん、ここにスポット当ててくれる?若く見えるように、お願いね」と驚きのトークを展開するんですよ。なんかね。「みなさん、一緒に歌って、ジョンのことちょっと手伝ってくださーい」とか、Riseの前にいうんです。誰が?ジョン・ライドンが。何が見える?永遠が。なんなのこれ?愛されキャラのジョン?マジすか。いやー、ありです。大ありです。もうジョン大好きです。いつまでも長生きしてください。子供の頃に煩った髄膜炎とその治療の影響で猫背になって、おまけに太ってしまったのでもうほとんど前屈みとしか言いようのないその姿を、やっぱり一度この目で見ておいて本当によかったと思います。サマソニの方はどうだったのか知りませんが、たぶんこういう設備の会場の方がよかったんでしょうね。

Posted by on 8月 16, 2011 in Music

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