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2012年前半のオークランド・アスレティックス

今年のアスレティックスの期待されなさ加減は半端なものではなかった。これからキャリアのピークを迎える20代前半か半ばの実績ある先発投手二人とクローザーをあっさり手放し、怪我も多くバッティングの安定感と送球に問題を抱えるココ・クリスプと再契約して、獲得したフリーエージェントの選手は左投手が全く打てない上にキャリアの数字のほとんどがコロラドのボールがよく飛ぶ球場で底上げされているセス・スミス、当たれば飛ぶけど当たらないジョニー・ゴームズだったのだから仕方がない。

風向きが変わったのは、どんな手を使ったのかわからないがマイアミと契約すると見られていたセスペデスと4年契約を結んだあたりからだ。このキューバの亡命選手は25歳と若く、もちろんMLBでの実績はないが高い身体能力とWBCでの活躍で十分に期待させてくれる上に、4年で36ミリオンとレギュラーの外野手としてみればそれほど高年俸でもないのが魅力だ。もちろん、ココ・クリスプの要らない感が余計に目立つことにもなったが。他にも、当然活躍するとみなされていたパーカーライアン・クックのような投手に隠れて、実はトレードの目玉であるA’s好みのピッチャー、トミー・ミローンの獲得も大きかった。特に目立つ球種もなくスピードも日本人の平均的な投手とほとんど変わらないミローンだが、コントロールがいいので制球に気をつけていれば投手に極端に有利なホームグランドでは強い。アウェイでは極端に成績が落ちるので勝ちと負けの数が拮抗しているが、10勝以上は望めるスコアを叩き出している(前半戦8-6)。このまま何年かホームで実績を上げていけばトレードのいい餌になって、相手方が実は球場の恩恵で活躍していただけだと気付いた頃には有望な若手をかっ攫われていることになるだろう。

ビリー・ビーンの悪魔的トレードの才能は今年はボストンを標的にしていたようだ。イエール大学出身の統計を重視したいわゆる新しいタイプのGMだったエプスタイン(ビリー・ビーンに憧れていることを公言していたらしい)がシカゴ・カブズのプレジデントに引き抜かれて退職した隙を狙い、後任が間抜けなのを知ってオールスター出場経験者のクローザーであるアンドリュー・ベイリーと好守巧打の外野手ライアン・スウィーニーを献上したが、これがインチキ中古車ディーラーもびっくりの酷い手口だった。ベイリーは肘に故障があり毎年2ヶ月以上は休む怪我人、スウィーニーは治らないであろう膝の怪我を抱えているので才能はあるがパワーもなく控えで終わるだろうという、大変残念な面子なのだ。幸いスウィーニーは持ち前の打撃センスでそこそこ活躍しているようだが、ベイリーはとうとう手術のため今シーズンの出場はなくなった。そしてビリー・ビーンが獲得したのは、去年半分レギュラーの外野手だったジョシュ・レディック。今年は打率こそ低いが今年は前半戦だけで20本塁打を放ち、打者に不利なオークランドでも存分にその力を発揮している。また守備も良く肩も強いので捕殺が多く、サヨナラ打の後でチームメイトに2度も飲料を浴びせられた後にシェービングクリームのパイ投げ攻撃を食らってもタオルで拭きもせずそのままインタビューに答え続けるノリの良さですっかり人気選手の座に収まっている。実はビリー・ビーンは2008年からジョシュ・レディックを狙っていたらしく、エプスタインは辞めた後にトレードが決まったレディックにそのことを教えてあげたらしい。いい人だ。

トレードの表の目玉であるパーカーがそれなりの活躍でローテーションに定着したのに隠れて、実はA’sにとって大きい補強が今年実を結ぼうとしている。2007年からA’sのキャッチャーとして活躍してきたカート鈴木が、契約の関係で来年から年俸が跳ね上がることになっているので、A’sの財政状況から再契約は難しいかもしれない。そのため、後任のキャッチャーの補強が必須なのだが、これまでランドン・パウエル、ジョシュ・ドナルドソン、アンソニー・レッカーなど多くが挑戦して結果を残すことができなかった。しかし、今年ジオ・ゴンザレスを放出した見返りに獲得したデレク・ノリスがトリプルAで急速に打撃成績を伸ばし、数年後と見込まれていたMLBへのデビューを果たしたのだ。しかも、出場二試合目でサヨナラ3ランを放つなど活躍も華々しく(打たれたのは数年前までA’sに所属していたがそのとき年齢と名前をを詐称していたのがバレたサンチャゴ・カッシーヤ)、まるでカート鈴木のデビューのようだ。またサンフランシスコをクビにされたところを獲得したブラックリーとの相性が良く、とうとうブラックリーもローテーションに定着してしまったのもうれしい誤算だ。

オールスター級の先発二人とクローザーを放出して誰からも期待されていなかったA’sの投手陣だが、蓋を開けてみれば今年も素晴らしかった。先発ローテーションは去年WHIPではリーグ2位のマッカーシーを先頭に、現在は中年の星コローン、パーカー、ミローン、ブラックリーと続き、さらにはグリフィンという去年までダブルAにいたピッチャーが3度の先発で結果を残すなど非常に安定しているわけだが、このうちの4人はほぼメジャーでの実績がないのだから驚きだ。とうとうブライアン・フエンテスをクビにしたブルペンも充実しており、来年年俸調停権を獲得するブレビンズをいい感じに酷使しながら、今年から投手に転向してシングルAから再出発したと思ったら26イニングで40以上の三振を奪いそのままメジャーに昇格したショーン・ドゥーリトル(MLBでも14イニングで24奪三振だからバケモノ)、A’s枠としてクローザーのために毎年確保されている枠を使ってオールスターにも出場したライアン・クック、サンフランシスコの選手のようなヒゲでポピュラリティに変化があるかどうか計測中のジョーダン・ノルベルトといったこれまた実績がぜんぜんない選手たちが鬼のような活躍をみせている。

そして、なんとA’sは数年ぶりに前半戦を勝率.500で折り返したのであった。おそろしい。あの貧乏若手チームがワイルドカードまで2.5ゲーム差につけているのだ。今年の後半戦は久しぶりに「再建」モードで有望選手の放出祭りになるのではなく、プレーオフを目指して補強するモードになりそうである。

そうそう、ココ・クリスプがバッティンググローブを使うようになって最近よく打っている。やれば出来るんじゃないか。

Posted by on 7月 12, 2012 in Baseball

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