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2012年後半のオークランド・アスレティックス

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前半戦のレビューにもあるように、勝率5割で大喜びされるのだから、今年のオークランドは全くどこにも誰にもこれっぽっちも期待されていないチームだった。テキサスが独走するアメリカンリーグ西地区で、せめて2位になってくれたらと淡い期待を寄せるのは、相当な身贔屓のファンだけだっただろう。

しかし、後半戦になってチームに変化が起きた。まず、この数年全く改善されなかった長打力が劇的に向上した。後半戦だけ見ればヤンキーズを(わずか1本だが)上回る本塁打数で、112本というのは最下位のマーリンズの57と比べればほぼ2倍、前半のアスレティックス自身が83本だから、どれだけペースが上がったかわかるだろう。代償として三振の数が前半戦の670から急上昇して704とこちらもMLB全体でダントツの1位となった。長打率も4位とこちらも上出来だったが、出塁率は15位、打率は17位なので、ようするにひたすら振り回すチームに変貌を遂げたということのようだ。XBHも2位のミルウォーキーに18ポイントも差をつけている。GO_AO(ゴロ/フライ比率)も0.87と他の追随を許さない(1.0を下回ったのは他には極端にバッター有利なホームグランドで長打を狙い続けるホワイトソックスだけ)。ひたすらお空に向かって打ち上げ続けた証拠だ。

もちろん、スタイルなんてそう簡単に変わるものではないので、後半戦から加わった新しい選手の影響は非常に大きかった。奥さんが双子を出産するというのに、契約で守られておらずウェーバー公示されたキラ・ミカ・カーイフーエ(無事どこからも声がかからず今はA’sの3Aにいます)と入れ替わりでMLBに上がってきたことで個人的にはちょっと色眼鏡で見ていたブランドン・モスが、最終的には21本塁打、OPS954というとんでもない成績を残した。これがA’sの選手にもたまにある例のお薬のせいでなければ本当に素晴らしい。また、未完の大器と慰められつつもうそろそろ後がないまま今年を迎えたクリス・カーターも、基本的にはモスと一塁手を併用ながら、共にキャリア最高の年を過ごしたのも大きい(こちらは元々とんでもない体格をしているので薬物の影響は考えにくい)。二人合わせて37本塁打なのだから、高給取りの一塁手が一人いるようなものだ(カーターがブレークしたのだから、マイケル・テイラーがいないことが余計に心残りではある)。今年のチームは選手の併用が非常に効果的で、DHと外野手としてツープラトンで起用されていたジョニー・ゴームズセス・スミスが合わせて32本塁打と、こちらも高給取りのDHが一人いるような成績を叩き出している。まあ、厳密には全員同時に出場したりすることもあるので完全なツープラトンではないのだが、それにしてもその効果は絶大である。また、スコット・サイズモアの膝じん帯断裂という大怪我もありキャッチャーから三塁手に転向するという整形手術並みの大決断をしたドナルドソンが、前半こそやはり慣れないのか打撃不振で降格したものの、トリプルAでは4割の打率を残し、肩を脱臼したインジに代わって後半に再昇格してからは大活躍して、終わってみれば後半戦だけみればスコット・ローレンやエリック・チャベスといった他チームの錚々たる三塁手に混じっても引けを取らない成績を残した。ドナルドソンの昇格までは、デトロイトでこの数年不振でポジションも失っていたブランドン・インジをウェーバー公示で拾い上げたらかつての長打力を取り戻して活躍したというのも大きい。ヒックス、モス、インジ、マッカーシーという、ドキッ、ブランドンだらけの野球大会といった趣もまたよい。高木、大島、中島の3人のひろゆきを揃えたかつての西武ライオンズを彷彿とさせる。

ところで、面白いのが、逆に見ると投手もフライアウトが多いのが目立った。MLB全体で投手のGO_AO比率が最も低い、ようするにフライアウトが多いのだが、これはファールグランドが異様に広く、また外野も深くフェンスも高いホームグランドの特性が活きたのだろう。ついでにいえば外野にはセスペデスクリスプレディックという名手が並んでいるのも大きい。クリスプの送球のひどさはともかく、レディックは捕殺数で全体2位(上にはフランコーアがいるもんで)、RFで4位と立派な成績。相手打者のOPSは年間で全体5位、WHIPが6位なのだが、奪三振数が全体で26位のチームなのだからこちらも上出来だろう。守備は相変わらずエラーが多い(FPCTが全体23位)が、DERが5位なので案外悪くないのかもしれない。

つまり、2012年のオークランド・アスレティックスは、いつものように投手力は非常に強力で、打つ方は確率は低いが当たれば飛ぶから接戦にもつれ込めばなんとかなる、そんなチームだった。前半こそクローザーをバルフォア、フエンテスで競わせたらどっちもコケてしばらくルーキーのクックで回したら疲れが見えて登板するたびに長打を食らってどうなることかと心配させたが、給料泥棒のフエンテスを彼のプライベートジェットで帰宅させてクビにしてからはバルフォアも安定し、オールスターに唯一選出されたクックがチームに戻ったら神通力がすっかり剥げ落ちた穴を埋めていた。さらには、ジャバ・ザ・ハットのような風貌でダルマのような体でも39歳でMLBで先発ローテーションに入って活躍出来るという夢のような話を実現させていたバートロ・コローンが実はそんなのやっぱり夢でドーピングに引っかかって前半戦でいなくなってしまったのだが、そちらの穴はダブルAから上がってきた二人の新人、A.J. グリフィンダン・ストレイリーがうまくはまった。どちらかというとグリフィンの方が注目されていたのだが(それでもどのトッププロスペクト特集でも名前は挙ったことはない)、ストレイリーもマイナーリーグで最も高い確率で三振を奪っているピッチャーとして突然注目され、遂にはMLBデビューを果たした。まあ、でも、うーん、評判ほどのコントロールはとうとう見られずじまいで、力量を発揮するにはもう少し時間がかかるかもしれない。ケガ人が続出するのも例年のA’sの慣習だが、今年はその中でも特にひどいことが起きた。2位を争うエンジェルズとの試合で、先発ローテーションに残っていた唯一のルーキーではない投手だったマッカーシーが頭部にライナーの直撃を受けて頭蓋骨骨折、即手術という大怪我を負ったのだ。ちなみに、手術明けにTwitterで元気な様子でつぶやいていた彼は退院のときに誰かに3Pしないか誘われたようだが。いずれにせよ、以降のA’sの先発ローテーションはなんと全員ルーキーとなり、その状態は24歳のアンダーソンがトミージョン手術から1年振りに復帰する9/19まで続いた。ついでにいえば、最初に穴埋めで上がってきた非ルーキーにして地元の星タイソン・ロスは2勝11敗と惨憺たる成績で来年以降の去就さえ危なくなっている。最年長のブラックリーが28歳にして実はこれまでのMLBでの通算登板数を調べたらルーキー資格を持っていたのが、それが発覚したのがRookie hazingの翌日だったのが趣き深い。ちなみに牽制が非常に上手なこのブラックリーがいるお陰で、チームが牽制で取ったアウトの数はMLB1位タイである。

まあ、とにかく、A’sはこの強力な投手陣をどう活用するのかに苦心したのだろう。その結論がこうなのかどうかは知る由もないが、唯一安定感のあるルーキー、セスペデスを中心に長打を狙ってひたすら振り回すスタイルであれよあれよと勝ち上がる姿は感動的だった。ポストシーズンを含めて年間15回もサヨナラ勝ちしたこのチームの試合は、どれも文字通り最後まで目が離せないのだ。そして、連勝連勝で首位テキサスとの差を縮め、スターだらけのこの金満チームから最終戦で遂に6連勝で首位を奪い逆転優勝したのだから驚いた。驚きすぎてもう何がなんだかわからない。この数年のアスレティックスは、かつての自身に追いかけ回される呪われた海賊船のような状態だった。マネーボールが話題になったのはいいが、お陰で似たような戦術を採用するチームが増え、カモだったレッドソックスから泥棒のようなトレードを成功させることもかなわず、代理人たちはA’s好みの選手の売り先が増えたので強気で交渉するようになる。チームのケミストリーなど信じないというGMなので、明らかな腰掛け契約の選手でも喜んで獲得するが、代理人が喜んで失禁するだけのそんなプランではうまくいくはずもなく、プレーオフ進出が絶望的になる後半にその手の選手を放出するととたんに成績が向上するのもいつものこと。だが、今年は違った。まあ、たぶん単純に交渉に失敗しただけなのだろうが、久しぶりのポストシーズン進出のチャンスなのに、遂に非ウェーバーのトレード期限までにトレードはなく、ウェーバーでショートのドリューを獲得しただけで、マネーボールにも書かれていたお得意の前半と後半で違うチームに化ける戦術も採用しなかったのだ。結果的に、結束を固めたチームには変な踊りが流行し、強者のように戦い強者のように勝ってしまった。その一方でリーグのライバルであるエンジェルズときたら、年初にウィルソンとプホルズを補強したのに、今度はさらに多額のディズニーマネーをぶち込んでザック・グレインキーまで獲得したのだから対称的だ。なぜかテキサスは明らかに不足している先発ローテーションに高給取りだがそれほど活躍するわけでもなさそうなデンプスターのみの補強にとどまり、これが後を引いて最後はA’sに逆転を許してしまった。ついでにいうと、イチローを遂に放出したシアトルの躍進は凄まじく、予算も楽になったのでひょっとしたら来年は結構やるかもしれない。

2006年以来となるポストシーズンは、しかし残念ながら2-3でデトロイトに破れてしまった。その内の二度はヴァーランダーが相手だったので仕方がない。特に勝てばALCS進出という最終戦では、相対的に弱いブルペンをカバーするためヴァーランダーが120球以上も投げて完封したのだから恐れ入る。しかし、そのデトロイトにしても、ヴァーランダーに加えて三冠王に輝いたミゲル・カブレラとプリンス・フィールダーといった超高給の選手を何人も抱えたチームであり、それとガップリ組んで一歩も引けを取らなかったのだから、それはそれでとんでもないことではないか。よくある言い回しに「弱いチームには弱いなりの戦い方がある」というものがあるけれど、たまたま一試合かそこらを勝つのではなく、それでMLB全体でも特にレベルの高いリーグを制するのだから、素晴らしい。マネーボール2が出来るとしたら、かつての自分たちの栄光に呪われながら、それを断ち切ったとんでもなく面白い物語になるだろう。

来年の話をもう始めるのもおかしいかもしれないが、今年のチームはそもそも無理なくMLB30チーム中29位のいつものポジションでペイロールを抑えていたこともあり、基本的にはほぼそのままの形で来年も残るといわれている。フリーエージェントになる主な選手はジョニー・ゴームズ、ブランドン・マッカーシー、ブランドン・インジにスティーヴン・ドリューだが、ドリューは来年から1,000万ドルプレーヤーになってエージェントのボラスをますます太らせる予定だったのが不調のためアリゾナから放出されたこともあり、来年そのオプションをA’sが行使することはまず考えられない。頭蓋骨骨折と脳の周囲が腫れ上がって手術を受けたマッカーシーとゴームズはおそらく残留とみられている。インジは不透明だが、ドナルドソンの台頭やスコット・サイズモアが復帰するためサードは難しいかもしれない。だが、いずれにせよ今年のチームのコアは残ったままだ。セスペデスを中心に、あと何年かはやってくれそうなチームが出来上がりつつあるのは楽しみである。しかも、来年からはイチローを放出して弱体チームを卒業しようとしているシアトルに代わり万年ビリ候補としてヒューストンがリーグに編入されることが決まっている。ここらでがっつり稼いで、来年こそはポストシーズンでの活躍を期待したい。

っていうか、こんな強者っぽい振り返りレビューが書けることになるなんて思ってもみなかった。うれしい。とにかく素晴らしい。

Posted by on 10月 13, 2012 in Baseball

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