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貧者転がしビジネスが街にやってきた

恐ろしいな、と思ったので自戒を込めて。

世の中には、ネズミ講みたいな商売がたくさんあります。アフィリエイトとかネットワークビジネスとか、いろいろな呼び名がありますが、いずれもただの昔ながらの詐欺商売です。ずっと前からロクでもないものと相場が決まっているのですから、ドードーのように今頃絶滅していても不思議ではないのですが、どういうわけかなくなる気配すらありません。それどころか、都心の喫茶店にでも立ち寄れば、さわやかなスーツ姿の若者が、学生みたいな普通の格好をした別の若者(たち)に熱心に経済やら株やら天下国家のことやら話して聞かせているので落ち着いて本も読めないことも珍しくはありません。「正しい投資をしないやつはひどい機会損失をしている」「君たちだけには特別にこんな話をしているんだ」みたいなことを昼間っから素面のくせに大げさに言い立てているので、「ふーん、あんたがそんなにお偉いってんなら、そしてそのご同輩たちのことをそんなに特別に目をかけているっていうなら、さっさとご自宅の超高級マンションに超高級車で連れて行ってあげればいいじゃないですか。さぞかし儲かっていらっしゃるんでしょうし。いったいなんでこんなところで一杯500円のコーヒーで何時間も粘ってらっしゃるんですか?」と思いながらも、いちいち他人事に顔を突っ込んだりはせず、自身のスルー力を試されることになります。

マイケル・ムーア監督の出世作『ロジャー&ミー』は、大手自動車会社が生産拠点を海外に移し国内の工場を次々と閉鎖していく中で急速に荒廃していく企業城下町の惨状を描くドキュメンタリーでしたが、そこで強制退去の憂き目にあったり自給自足生活を始めたりする人たちの姿に混じって、アムウェイが進出していく様子もあってドキッとさせられました。マルチ商法に引っかかるのは、お金に困っている人たちです。いくら綺麗事を並べても、それには変わりはありません。いわゆる下流食いビジネスというやつは、ひとの弱みにつけこんで、そこから抜け出すための手を貸すからと言葉巧みに貧しい人たちに近づき、なけなしの金を寄越せと迫るものです。そこで実際にお金を手にすることができるのは、実際には世間の収入格差と比べても不当に少ないごく一部のモラルなきサイコパスです。

しかし、こういうひどい輩を他人事としてこうして嘲っているのも、実はお気楽な態度である可能性はあります。

我が身を振り返ってみても、例えばこの1年ほどの間、たまたま縁があってときどき講演や専門学校での講義というかたちでプログラミングについて誰かに教える機会があります。はっきりいってこんなことやっても少しも儲からないのですが、結構楽しんでやっています。知識は共有してこそ価値のあるものであり、それにある程度の技術を身につけてしまうと、うっかりするとそれに胡座をかいてしまうかもしれず、数年もすればあらゆる表層的な技術知識は次々と陳腐化していくこのイヤーンな世界で、ぼくみたいな半端なエンジニアにとってそんな怠惰は致命的なので、知ったつもりのことをもっと深くまで追求するきっかけを常に持っていたいという意識もあります。それから、この世界で仕事するようになってもう結構な年数になりますが、いまだに鬱病と痔はプログラマの宿痾であり、多くの若い人たちが最初は好きでやって来たこの世界で傷ついて落ちこぼれていく姿をあちこちで見ているので、せめてそんな目に遭わないよう手助けできることがあればという気持ちもあります。さらには、関わってきた方々の中には、本当に使命感をもって仕事されている方も少なからずいるので、そういった方々の期待に応えたいというのも、まあ思い上がりはさておき、間違いなくあります。

しかし、恐ろしいことに、プログラミングの講習という世界では、探せば探すほど、コンピューターサイエンスとも関係なければ、実際のソフトウェア開発の現場で蓄積される知見とも関係がなく、トークとはったりで誤摩化しただけのひどいケースがたくさん見つかるのも事実です。初心者向けと称するものこそ、その内容には細心の注意を払うべきだと思いますが、未経験者歓迎という講座の大半は未経験者歓迎と求人票に書かれているIT系の職場と同じで、現実にはほとんどがひどい有様です。もちろん、素晴らしい講座もあるにはあるのですが、そもそも初心者というのは定義からしてそんな善し悪しの見分けがつかない人のことをいうのですから、事態は余計に深刻です。ようするに、簡単には仕事も手に入らないこのご時世に、手に職をつけるためにこういった講座を受けようとしている人たちを、下流食いビジネスの輩は「3週間で認定コースを受験できます」「これだけで初心者でもアプリが開発できます」みたいな宣伝文句で待ち構えているのです。この手の人たちには血の臭いを嗅いだサメほどにしか良心がないので、どんな嘘でも平気でついてきます。せめて自分はそういうことはしないよう心がけようとしていますが、残念な人たちにより業界自体が食い荒らされていることには強い危機感を覚えます。

結局のところ、受講者は自分で自分を守るしかないわけですが、講座の内容の善し悪しなど初心者が簡単に推し量ることは出来ないでしょう。おそらく、いい指標になるのは、難しいことを簡単に出来るようになると宣伝している場合、達成できることとそれにかかる手間の差が大きければ大きいほど、そこにはたくさんの嘘が詰まっているということです。もちろん、初心者にとってExcelでピポットテーブルを使ってクロス集計するのとObjective-Cである程度の規模のプログラムを組むことの難易度の違いは見当もつかないでしょうから、そこは自分で判断するべきではありません。今時のプログラミング言語やプラットフォームについてなら、どの環境でもそれなりのユーザー同士のコミュニティというものがあります。その手のコミュニティではたいてい折に触れて勉強会を実施していたりしますので、大きな決断をする前に、一度自分で顔を出してみるといいでしょう。手前味噌で恐縮ですが、Titanium Mobileならユーザー会のサイトで勉強会の告知があります。そういった場所で、例えば「○○という有料の講座があって、そこでは3週間の講義だけでスマートフォン向けのゲーム開発者になれると謳っています。本当にそんなことが可能なのでしょうか?」と質問してみるのもいいかもしれません。あるいは、行き詰まるところまででも自習するべきです。有償の製品を購入しなければどうしようもないものを避けたとしても選択肢はたくさんあります。またたいていの製品には無償で利用できるトライアル期間があります。そういった努力の上で質問しているのであれば、それにきちんと答えないコミュニティは付き合ってもあまりいいことはないでしょうから、別の道に進む方が合理的です。プログラミング言語やプラットフォームを選ぶのは、結果はどうあれ、そのコミュニティを選ぶのと同じことなのです。そうでなければ、どっちにしろいい開発者にはなれないでしょう。

Posted by on 11月 20, 2012 in Education

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