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2013年前半のオークランド・アスレティックス

この数年ずっと一年か半年毎に書いている、自分とうちのお兄ちゃんが楽しむためだけのシリーズ。

昨年、映画『マネーボール』の公開とともに低かった前評判を覆してシーズン最後の試合で逆転するというマンガのような展開でアメリカンリーグ西地区優勝を果たしたオークランド・アスレティックスだったが、今年も前評判は低く、だいたいどのメディアでも3位くらいの予想でシーズンに入った。5チームしかいない地区の3位で、しかも残り2チームはあのやる気のないヒューストン・アストロズと能力のないシアトル・マリナーズなのだから、まったくもって侮辱的な予想である。しかし、昨年と比較すると、例によってそれほど大きな補強もなく、抜けたのが開幕投手経験豊かなショートクラブハウスのリーダーにして右の代打の切り札と、一言でいえばチームの要が全部と聞けばまあ誰だってあまりいい予想はしないだろう。相変わらずのオンボロ球場に巣食う、選手の年俸総額はMLB全体で下から3番目くらいの、好景気に湧くお隣のサンフランシスコをいびつな嫉妬の目で睨み続ける貧乏球団であるのはいつもの通り。

昨年オークランドが優勝した背景にある戦術はだいたいこんな感じだった。打者の成績には対戦相手となる投手の右、左により大きな偏りがあるケースが結構多い。実際、MLBのサイトでも対右、対左で成績を分けて閲覧することが出来るくらいだから、これ自体は別段新しい見方というわけではないのだが、オークランドは選手補強に際してこの点に目をつけた。成績をシーズンで平均するとたいしたことのないスコアになるため評価(と給料)が低く埋もれているが、実は相手投手が右/左投げのときだけは超一流の打者になるというタイプの打者を集め、1つのポジションにその手の打者2人を起用して使い分けることにしたのだ。出場試合数が少ないため個々人の給料はそれほど上がらないが、よく考えるとものすごい高給取りの打者が1人いる状態になるのでチームはとんでもなく強くなる。急いで補足するが、これ自体はプラトゥーン起用といって昔からよくあるやり方ではある。しかし、普通はレギュラーが決まらないポジションで仕方なく採用するのがこのシステムであり、シーズンを通じて複数のポジションでこれを徹底的に押し進めるようなケースはあまりなかった。

この戦法は2013年も継続しており、一塁、二塁、指名打者、捕手でこのシステムが採用されている(昨年と違って外野手は固定されるようになった)。また、象徴的だったのがシーズン前のトレードだった。外野手がダブついたワシントンが急遽マイク・モースの放出を決めた際、このヘラクレスのような体格の強打者モースを獲得する資金など持ち合わせていないはずのオークランドが全然関係ないのにしゃしゃり出て、ワシントンはモースをシアトルに送る代わりにオークランドの若手3人を獲得し(何人かは元々ワシントンからオークランドが獲得した選手だったりする)、シアトルはキャッチャーのジョン・ジェイソをオークランドにトレードしたのだ。実はジェイソは平均値で過小評価される典型のような打者で、左投手は全く打てないが右投手が相手の場合に限ってバリー・ボンズに変身する不思議な選手なのだ。オークランドのGMビリー・ビーンはもう何年もジェイソの獲得を熱望しており、とうとうワシントンの下手な選手補強という偶然のチャンスをものにすることが出来たというわけだ。ジェイソの他にも、極端に左投手に弱いが右投手が相手だとそれなりの成績を残す外野手セス・スミスや一塁手ブランドン・モスを出したり引っ込めたりしながら、例年通りの強力な投手陣に支えられ、いつの間にか今年も首位を走っている不思議の国のオークランド・アスレティックスなのであった。

そう、今年は前半からがっつり首位なのだ。2年前の自分に教えてあげたい。オークランドのファンであることは恥ずかしいことではないのだ、と。

2013年シーズン前の補強で最大のヒットは、なんといってもジェド・ラウリーの獲得だろう。ボストン・レッドソックスのドラフト1巡目という輝かしい経歴を持つ選手だが、骨折などの度重なる怪我や、ディープキスで感染することで知られる奇病、伝染性単核球症により数ヶ月プレー出来なくなるなどひどい目に遭い続けたため、遂にボストンを追われ今MLBでもっともマイナーリーグに近い弱小球団ヒューストン・アストロズでくすぶっていたところを、しつこい交渉の結果、対左投手用の一塁手クリス・カーターらとのトレードでオークランドが獲得した。正直、個人的にはマックス・スタッシという野球一家出身の若手キャッチャーも放出されてしまい残念なトレードではあったのだが、ラウリーの活躍は大方の予想をはるかに上回っている。ショートとしてはリーグでもトップクラスの打撃成績で、両打ちで相手投手の左右に関係なくコンスタントに結果を残す上に長打力もある。これまでの怪我や病気も、衝突による骨折など長引くものではないと判断して大型トレードに踏み切ったオークランドの大勝利だ。同じトレードでついでに獲得したピッチャーは春先にトミー・ジョン手術が決まり早々に脱落したが、もう誰も覚えていないだろう。

今月で非ウェーバーのトレードは締め切りだが、今のところ大きな成果は挙っていない。噂ではジェイク・ピーヴィーの獲得を狙っているというが、確かにオークランドの広い球場ではフライボールピッチャーのピーヴィーには有利だろうけれど、まあきっと資金の面で無理だろう。ネイト・フライマンがそれなりに頑張ってはいるが、右の強打者が欲しいところではある。

そうそう。エリック・ソガードがレギュラーとしての地位を固めつつあるのも喜ばしい。ファンが眼鏡のイラストとハッシュタグ「#nerdpower」を球場に掲げて応援することでも知られる、今時珍しい眼鏡の野球選手である。野球と勉強の両方でアリゾナ州立大学の奨学金を獲得し、決して恵まれた体格ではないのに活躍しているこの選手だが、マイナー時代には三振より四球が多い巧打者で、『マネーボール』でもおなじみのポール・デポデスタがサンディエゴ時代に獲得したことでも知られていた。シーズン当初は右投手専用の二塁手という扱いだったが、次第にプレー時間を伸ばしつつある。

一方、何年もずっと期待の若手だったマイケル・テイラーが、AAAでチーム歴代記録に並ぶ打撃成績を残すものの、つまりそれだけメジャーに昇格しても定着出来ずマイナーリーグに戻って来るという意味でもあるわけで、遂にチームのトップ・プロスペクトにも入らなくなってしまった。しかし、スタンフォード大出身でハンサムな青年でもあり、春先にはサンフランシスコのラジオ局のインターンをしていたくらいから、しゃべりも出来るのできっと引退しても仕事はあるだろう。

リーグの首位を走りながらオールスターにファン投票ではひとりも選ばれない上に監督推薦でも野手は一切選出されないというスーパー過小評価されたオークランドの2013年も、相変わらず見ていて飽きない。

追記:野球が好きならみんなチェックしているMiLBで西武ライオンズから移籍したままAAAに埋もれている中島裕之の動向も一応追いかけてはいるのだが、最近ではショートのラウリーが完全にレギュラーに収まっているので、使いどころがなくなった中島を左投手用の二塁手にするべく起用が続いているようだ。しかし278/341/374という数字を見れば長打力に欠ける以外は悪くはないのだけれど、同じポジションの若手グラント・グリーン(324/378/501)にははっきりと見劣りするので、先に昇格されるのも無理はない。そのグリーンでさえ上では全く打てずに降格になったのだから、まだまだ厳しいだろう。$6.5mの契約は来年まで残っているので、メンタルの強さに期待するしかない。チームは打てる右の内野手を渇望しているので、頑張ってほしい。少なくとも、打撃不振で降格の際のオレ様発言連発ですっかり不遇になったジャマール・ウィークスよりはるかに多くのチャンスがあるはずだ。

Posted by on 7月 29, 2013 in Baseball

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