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2013年のオークランド・アスレティックス

昨年の優勝にも関わらず、うちのお兄ちゃんも大好きな日本スポーツ企画出版社の雑誌「スラッガー」でも今期の予想は3位だったオークランド・アスレティックス。テキサス・レンジャーズの大幅な失速もあって、とうとうアメリカンリーグの西地区二連覇を達成してしまいましたよ。

今日までにマジックは残り1だったので、優勝は試合途中にダイアモンドヴィジョンに放映されていたようにカンザスシティーがサヨナラ満塁ホームランでテキサスに勝った時点で決まってはいたのですが、最後にスクリブナーが勝ってもあんまりうれしくなさそうなのは自身がリリーフで2失点してしまっていたからですね。ご愛嬌です。

でも、感動がない試合だったわけではありません。今年だけで二度もウェーバー公示されたのを跳ね返してメジャーに昇格したダリック・バートンが優勝を決めた試合でホームランを放っています。二度も公示されてまだ元のチームにいるということは、二度ともどこのチームも獲得の意志を示さなかったという厳然たる事実をあらわしているわけですが、そんな選手が最後に這い上がって8月は一塁手のレギュラーとして活躍しているというのは素晴らしいと思います。左打ちのバートンは本来右投手用の一塁手なのですが、左投手用の一塁手として今年デビューして好成績を残しているフライマンが打撃練習中に怪我をしてからは不動のレギュラー(主に9番バッター)として出場し、打率3割と結果を残しています。この選手、一塁の守備には定評がある、というかもはや名手という評価を得ているのですが、実は元キャッチャーで、打力を評価されてオークランドに移籍してから内野手に転向しています。まるでハッテバーグの再来ですが、打撃もまたハッテバーグと同じような評価を受けていた選手でした。しかし、2007年のデビュー時には鮮烈な印象を残したものの、その後は友人宅のプールに飛び込んで頭を打って重傷を負ったり、2010年の再デビューで273/393/405という「ちょっと長打力は見落としするけどフランチャイズの見本となる高い出塁率」にリーグ最高の110四球でレギュラー確定といわれたのも束の間、相手投手に対策されて以降は怪我もありズルズルと衰退していったその姿は多くのファンをがっかりさせました。しかしAAAサクラメントでしっかり実績を残して這い上がってきたのは評価に値します。AAAでは三塁手としても出場していたのですが、どのポジションでもいいので来期もなんとか残留してもらいたいものです。

バートンと同じくキャッチャーから転向した内野手として、今年はジョシュ・ドナルドソンのブレークした年として語り継がれることになるでしょう。当時のレギュラー捕手だったカート鈴木の牙城を崩すことが出来なかったアンソニー・レッカー(デビュー戦で20失点)やランドン・パウエルといったキャッチャーの一人として選手寿命を終えるかに思われたドナルドソンでしたが、昨年の後半から一気に打力が開花し、おまけに守備力も大変高いことが判明して、リーグでもトップクラスの三塁手となりました。なんといっても「同一ポジションで置換可能な平均的選手と比較してどれだけ勝利を上積みしたか」を示す指標WARでは7を越えているわけですから、ミゲル・カブレラエヴァン・ロンゴリアといったビッグネームに堂々と肩を並べる成績を叩き出していることになります。特に左投手を相手にした場合はミゲル・カブレラの少し下、ようするにまともな人間なら最高峰といえる成績なのですから文句のつけようがありません。今では完全にフランチャイズの顔になった感があります。父親が5歳で刑務所に収監された厳しい環境の中、子供時代はひどいいじめに遭ってキリスト教系の学校に転校して難を逃れるなど苦労してきたドナルドソンですが、2013年になって実父が初めて彼のプレーを観戦し、その目の前で四球2つに二塁打と三点本塁打と大活躍しました。ちなみに、ドナルドソンがオークランドにトレードされたとき、一緒にシカゴ・カブズから移籍した選手たちの中には阪神でプレーしているマット・マートンもいました。移籍後すぐの試合で四番で出場していたのは驚きでした。

それと、野手で特筆すべきはエリック・ソガードでしょう。どうやらやまもといちろうから放出だろとけなされていたようですが、それも今は昔(あ、このトレードは大成功でしたよ、膝が死んでるスウィーニーと毎年2ヶ月は休むし今年は上原の引き立て役になったベイリーをレディックと交換しましたからね)、昨年ブレークしたセスペデス、レディック、モスらがことごとく不振に苦しむ中、右投手用の二塁手としてその地位を安定させたのはファンにとっては大きな喜びでした。MLBでは珍しい眼鏡でプレーすることから、#nerdpowerのハッシュタグまで用意される人気ぶりです。

ヤンキーズ戦で目の覚めるようなロングリリーフを見せたジェシー・チャベスがナポレオン・ダイナマイトのセリフを決めるのが素晴らしいです。

今年のチームはキャッチャー受難の年でした。開幕戦のキャッチャーだったジョン・ジェイソは試合中に二度もマスク越しとはいえファールチップが直撃した影響で脳しんとうとその後遺症の治療のため最後の一ヶ月間をリハビリに費やす状況、左投手に極端に弱い(右が相手ならバリー・ボンズになる)ジェイソを補強する右打ちの捕手デレク・ノリスは今年から加入したベテラン外野手クリス・ヤングにベテラン選手と間違えられた老け顔をマスクで隠して活躍していましたがホームベース上のクロスプレーでつま先を骨折してしまいました。しかし、カート鈴木が「このまま安定した成績を残し続けたら高年俸になって雇い続けられなくなる」という危機感を募らせていたチームは捕手の層を分厚くしていたため、この状況が28歳のほとんどメジャーで実績のない左打ちの捕手スティーヴン・ヴォートが昇格して4本の本塁打を放つきっかけとなりました。そして、デレク・ノリスの怪我の後には、高年俸になることが予測されたので放出されたカート鈴木が、ええと、そのう、まあ、ぶっちゃけ年々成績が下降して移籍先でくすぶっていたのを再度トレードで獲得して、総じて守備に不安のある捕手陣がおおいに補強されることになったのでした。オークランドの低迷期を孤軍奮闘で支えていたカート鈴木の帰還はファンに熱烈に歓迎されました。おかえりキヨシくん、おっさんはとってもうれしいよ。

昨年も派手な補強は実現しなかったのですが、今年もトレードデッドラインまでにルーキーのグランド・グリーンを放出してアルベルト・カヤスポをエンジェルズから獲得しただけにとどまりました。これでソガード、ラウリーと共に複数ポジションをこなせるミドルインフィールダーが3人揃ったので、誰が故障してもカバー出来る体制が強化されました。個人的には野球選手に人格を求めることはしないので、まあどうでもいいことなのですが、カヤスポは2007年にDVで逮捕されています。その後告訴は取り下げられ、夫婦は子供と一緒にまだ暮らしているそうですが、かつてエンジェルズに在籍したチャック・フィンリーは妻から受けた激しい暴力に苦しみ離婚しているわけで、カヤスポも少しは彼を見習うといいと思います。

とはいえ、オークランドを支えているのは、その強力な投手陣です。毎年安定してあまりに強力なので、まるで所与の存在のように思われてしまいがちですが、当然ながらそんなわけはありません。まあ、もちろん悪いケースもあるのでまずはそちらからあげていきます。長期契約した途端に怪我ばかりしているブレット・アンダーソンは相変わらず今年も怪我のため活躍できず、シーズン終盤になって大差のついた試合で失点しまくって、アウトは誰にも打てないスライラーでポンポンと三つ続けて三振で取るというプレシーズンマッチ仕様の投球を続けてシーズンを中抜きし、今からポストシーズンに備えるという贅沢ぶりです。実は彼は高校時代にはその投球よりも打撃力で有名で、同年代にハンク・コンガートラヴィス・スナイダーがいる中で堂々の打撃三冠王だったらしいので、ナショナルリーグへの移籍も真剣に検討した方がいいのかもしれません。その他、薬物疑惑のジョーダン・ノルベルトが早々に契約を切られ、昨年の活躍で慢心したかスプリングトレーニングで散々な投球を披露したオーストラリアの投手トラヴィス・ブラックリーも契約を解除されました。そして何より、昨年産まれたお子さんが産後24時間以内に急死するという悲劇に見舞われた右の変則投法のパット・ネシェックが今年は途中まで踏ん張っていたものの後半にひどい内容の投球が続き、おそらく来年の契約はないと予想されています。残念なことです。

それ以外は、リーグ最高レベルの投手陣としか言いようがない充実したラインナップでした。先発は昨年PEDの禊ぎで50試合出場停止処分を済ませ40歳にして球速が上がったバートロ・コローンを筆頭に、ジャロッド・パーカーA・J・グリフィンダン・ストレイリートミー・ミローンという陣容でしたが、コントロールが生命線のミローンのコントロールが安定せず、ここには新人のソニー・グレイが入ることになりました。グレイはオークランドにドラフト1位指名された当時は最もMLBに近い新人投手として注目を集めていましたが、小柄な右投手として制球力を向上させるよう要求された影響で本来のピッチングが出来ず、なかなか結果が残せなかったことから以前のいい加減な制球で球威で押すタイプに変更したところ成功してMLBデビューを果たしました。そういえば同じようなタイプで同じような問題に苦しんでいたブラッド・ピーコックも今年ようやく移籍先のヒューストンで結果を出すことが出来ましたね。彼らのようなスタイルは悪い時にはどうしようもなくなるので早い回でノックアウトされることもあるのですが、グレイは今のところそれなりの結果を残しています。早く強力なシンカーでも覚えてティム・ハドソンのようになってもらいたいものです。

今年のコローンの成績はかつてサイヤング賞を獲得した年よりも上かもしれません。右打者のインコース、左打者のアウトコースに向かって異常に曲がるツーシームと終盤になると95マイル(152km)を越える速球、投球の7割以上がストライクという制球力を武器に神懸かり的な成績を残しています。ただし、昨年のPED問題があるので二度目のサイヤング賞は考えにくいでしょう。一方、ジャロッド・パーカーは5月以来ずっと負け知らずの投球を続け、先週ついに病気のためローテーションを一度飛ばした後の登板でようやく負け投手になったくらいの好投が続きました。往年の槙原を彷彿とさせるいいピッチャーなので今後が楽しみです。

球場の移転問題がずっと議論されているオークランドですが、先発投手を眺めるとちゃっかり現在の球場の利点を活かすようにフライボールピッチャーを並べているのが面白いですね。A・J・グリフィンに至ってはリーグ最多の被本塁打というおまけつきです。広くてフェンスが高くておまけにファールグラウンドが広大なオークランドの球場は老朽化のため今年も何度も下水道のトラブルに見舞われていますが、若手の先発投手たちにとってはありがたい存在のようです。この強力な先発陣を支えるのがこれまたリーグ最高峰のリリーフ陣です。ロングマンには先述のジェシー・チャベスがいます。AAAでは先発なので、延長18回のとんでもない試合で6イニングを投げることも平気です。先発が手薄な他球団には喉から手が出るほど欲しい人材なのではないでしょうか。ジェリー・ブレヴィンズは投げ方を見ると左のワンポイントに見えますが実はそれなりに長いイニングをこなすことも出来て、昨年から安定感のある投球を続けており、イチローを極端に苦手にしている以外は頼れる左投手です。先発投手と彼らロングマンが試合を作ればもうしめたもので、後はいつものメンツが手ぐすねを引いて待ち構えています。左のショーン・ドゥーリトルは152kmから155kmくらいの真っ直ぐを投げ込む左投手です。以前、王監督がインタビューで左の速いピッチャーは本当に打てないと感慨深く(おそらく江夏を思い浮かべて)語っているのを見たことがありますが、ドゥーリトルの真っ直ぐもまた本当に打たれません。そして何より、2年前まで彼は将来を嘱望された強打の一塁手だったのが感慨深いです(大学時代は投手と一塁手の二足のわらじでした)。管理のしっかりしているメジャーリーグですから、オリックスの嘉瀬のように酷使されて肩を壊してしまうこともなく活躍してくれることを祈ります。ドゥーリトルと同じく中継ぎのエース格なのが2012年のオールスターに出場したライアン・クックです。こちらも150kmを越えるストレートを投げますが、ドゥーリトルがフォーシームで浮き上がってくるような直球なのに対して、クックの場合は打者の近くでストンと落ちるようなツーシームが主体です。最近あまり調子が良くないのが気がかりです。そして9回にメタリカの昔のヒット曲「One」をバックに登場するのが、ノームのキャラクターとマウンドで怒り狂ったように叫び散らすスタイルで人気のオーストラリア人、グラント・バルフォアです。外野席のファンはイニングの前から立ち上がり頭を前後に振り続けて怒りの表現に加担します。実はバルフォアには素直な回転のフォーシームとカーブ、スライダー、チェンジアップというオーソドックスな球種しかなく、直球もそれほど速いというわけでもない(せいぜい150kmくらい)のですが、制球がいいときはかなり結果を残すので、なんと今年は昨年から続いた連続機会セーブでチームの永久欠番デニス・エカーズリーが持つ球団記録を破ってしまいました。

オークランドの戦術は、この強力な投手陣を最大限に活用するものです。上原浩治が何を言ったとしても、先発投手はチームの最高の投手です。後ろのピッチャーは、どんなにいい投手であっても、やはり「短いイニングであればいいパフォーマンスを発揮する投手」でしかありません。だって、そんなにいい投手であれば、先発して試合の大半のイニングを任せるのが理にかなっているわけですから。また、終盤になればなるほど、リリーフも優秀な投手が出てくることになります。そこで、先発投手を早く降板させることが有利に試合を進める鍵になるわけですが、オークランドの場合は、とにかく相手投手に球数を投げさせることでこれを実現しています。特にマックス・シャーザーのようにひたすら豪腕でねじ伏せる投手が相手なら、彼はMLBで20勝以上するのですから当然なかなか打てないわけですが、可能な限りボールを見極めてたくさん球数を放らせることにより、5回くらいで降板せざるを得ない状況を作り出す作戦で対抗するのです。そうすることで、シャーザーと比較すれば豪雨と春雨くらいの差があるリリーフ投手たちに襲いかかって勝利をもぎ取ることが出来るわけです。こんな単純な作戦がどこまで通じるのかという話もありますが、意外と通じちゃってるんですよね。ダルヴィッシュが相手のときなど、三振なんかどうでもいいから、最後に勝てばそれでよしという感じの割り切った攻め方が非常に印象的でした。まるで昔のオーストラリア代表チームが松坂を打ち崩した試合みたいですね。今年の甲子園では花巻東の選手がわざとファールを打ち続けて相手投手を疲れさせるバッティングを披露し賛否両論を呼びましたが、もちろんメジャーリーグでそんなことをしても150kmを越えるストレートを相手にそんなことをするのは無理です。実際、アスレティックスも別にそんなことをしているわけではありません。単純にタイミングの合わない投球には手を出さなかったり早いカウントから狙ったボール以外に手を出さないようにしながら機会を伺っているだけなので、球数を投げさせるという戦術を非難するような声は特にありません。

さて、これからいよいよポストシーズン、まずはデヴィジョンシリーズが始まるわけですが、去年はここでデトロイトに最終戦までもつれて敗退しました。デトロイトの絶対的なエース、ヴァーランダーが強力な投球内容で立ち塞がり、オークランド・アスレティックスの「疲れた先発を降板させてリリーフに襲いかかる」いつもの戦法が通じないように、いつもは100球程度で降板するのになんと120球も投げて完投するという荒技で第5戦をもぎ取られてしまいました。デトロイトの3勝2敗の内の2つはヴァーランダーだったわけで、彼の存在が明暗を分けたといっても過言ではありません。今年もデトロイトは強力な先発投手陣を揃えています。今日までにボストン・レッドソックスとオークランドの2チームがポストシーズンに進出を決めていますが、残り2枠の1つは間違いなくデトロイトです。あとはこの3チームの順位次第で対戦相手が決まります。ワイルドカードで進出してくるチームはまだまだ予想できませんが、出来ればそちらと対戦してもらいたいような気がします。まあ、短期決戦なので何が吉と出るかは全くの運ですから、何が有利で何が不利なのかもわかりませんけれど。

Posted by on 9月 24, 2013 in Baseball

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