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2014年のオークランド・アスレティックス

 まさかの2連覇を果たしても順位予想は2位か3位という悲しきアンダードッグ、オークランド・アスレティックスの2014年は割と地味に始まった。

 まず投手陣。補強されたのは無名の若手とのトレードで移籍したフェルナンド・エイバッドセス・スミスと交換でやって来たルーク・グレガーソン。球は速いがコントロールに難がある左投手と、中継ぎのくせに球速はないがスライダーを多投してタイミングを外すことに専念する地味な右投手だ。実績のあるグレガーソンは2015年にはFAなので1年限りの腰掛け移籍である。このエイバッドの獲得もあってか、この数年左のワンポイントから割と長いイニングまで投げていたジェリー・ブレヴィンズ(日米野球で来日してましたね)がところてん式に放出され、小柄で全くパワーがないがやたらめったら足の速いビリー・バーンズが加入している。ブレヴィンズ、どういうわけかやたらとイチローを苦手としていたのでナショナルリーグに移籍できてよかった。そして華々しいルーキー時代の活躍から一転、長期契約を獲得した直後からずっと怪我で出場していなかったブレット・アンダーソン(北京五輪の三位決定戦で日本相手に勝ち投手になった人)が放出され、これまたなかなか芽が出ずポテンシャルの高さだけは定評のあった長身左腕ドリュー・ポメランツとトレードされた。それからなんといっても驚きだったのは独立リーグを経てMLBに復帰したスコット・カズミアーの獲得だ。『マネーボール』に出てくるカージマー、といえば通りがいいかもしれない。そう、あの有名なドラフトのシーンでメッツが獲得したお陰でビリー・ビーンがずっと狙っていたスウィッシャーを見事A’sにもたらした、あの高卒ルーキーが何の因果かA’sに入るのだ。2013年シーズンはクリーヴランドで好成績を挙げてカムバック賞まで獲得したのだが、独立リーグ時代に著名なピッチングコーチから指導されていたらしく、驚くべきことにそのコーチは今は元A’sのエースにしてFAで巨額+長期契約を獲得した途端に二流の先発投手に成り下がったまま無事契約満了してバイアウト$7Mまで手に入れて、悪名高い代理人スコット・ボラスと一緒にサンフランシスコ・ジャイアンツを骨までしゃぶった挙句、当然のように契約してくれるチームがなくなり引退状態だったバリー・ジートを指導しているとのこと。これで2014年のローテーションはカズミアー、グレイA J・グリフィンパーカーとなり、残り一枠はトミー・ミローンが有力視されていたが、加えてソフトバンクが数年前に獲得し損ねたジェシー・チャベスとポメランツが争うことになった。また昨年までのクローザーで地元の人気選手、オーストラリア人のグラント・バルフォアがFAで高給取りになるので、新しいクローザーとして昨年まで2シーズンで100セーブを達成しているジム・ジョンソンが入ることになった。松井がサヨナラホームランを放ったことがあるベテランでシンカーを多投する地味な選手だが実績は十分だ。

 野手の補強はもっと地味で、まず全くの期待外れだったクリス・ヤングを解雇して、地元出身のユーティリティのニック・プントを獲得。ショートも守れるので中島が全く使えないと判断された以上は必要な補強だ。それから、レイズからFAになったサム・ファルドを獲得している。ファルドはどうやらかなり前から狙っていたようで、守備が上手で足が使えてボール球を振らず勉強も出来るという、最近のA’sが好みそうな選手だ。これでチームにはジェド・ロウリーとファルドという二人のスタンフォード出身(しかも元チームメイト)が在籍することになった。スタンフォードといえば最近ではGoogleみたいな企業で有名だが、主席で卒業しながら若いうちは野球をやるとMLBに入り通算270勝を挙げた上に20勝した年に引退したマイク・ムッシーナ(歴史上20勝して引退したのはサンディ・コーファックス以来42年振りらしい)や、飛び級で3年で卒業した秀才なのに西武ライオンズや日本の独立リーグでもプレーしたクリス・カーターのように面白い野球選手を外出していることでも有名だ。ロウリーも奥さんが外交官で本人も野球関係の文章を新聞に寄稿するちょっとした文化人だったりする。いずれにせよ、途中ポジションがかぶっているジェントリーを昇格させるためウェイバー扱いになりミネソタに移籍したファルドをトレード期限までに先発投手を放出してまで再獲得したのだから、A’sはよっぽどファルドに何かを見出しているのだろう。

 2014年のA’sは昨年に続いてプラトーン戦略を継続し、強力な投手陣に支えられてペナントを制するという戦術でシーズンに臨んだ。スティーヴン・ヴォートが怪我で出遅れ、野手はこんな布陣になった:捕手は右投手にだけ異様に強いジョン・ジェイソと、長打力はあるが守備はお粗末なデレク・ノリスが併用。一塁は右投手が相手なら超一流のホームラン打者ブランドン・モスと左投手用にネイト・フレイマン、二塁はアマ時代は強打で知られた守備のいいオタク顔でシーズンオフには嫌がらせのような大量の票を集め「Face of MLB」投票で決勝まで勝ち進んだエリック・ソガードが右投手用で、DV事件を起こして逮捕歴もありとにかく三振しないが守備に難があるアルベルト・カヤスポが左投手用。三塁はこのチームには珍しく固定されているが、それは有名選手と若手数人のトレードで加入したパッとしない控え捕手から内野にコンバートされた途端に急成長しトリプルAで四割を打って昇格後はMVP級の選手になったチーム最高のスター選手ジョシュ・ドナルドソンが入るからだ。ちなみに同じトレードでA’sに入ってきた選手に阪神のマット・マートンがいる。ショートにはおそらくレギュラーとしてはMLB全球団で最低の守備範囲を誇る両打ちのジェド・ロウリー。レフトはなんだかんだいってセンターから素直にコンバートされレフトにしては送球がいいので捕殺の多いヨエニス・セスペデス、センターは衰えたとはいえまだまだ広い守備範囲とMLBの外野手として最低レベルの肩でとうとうマイク・トラウトにセンターフライで一塁から二塁に走られた(間一髪でアウト)両打ちのココ・クリスプ、ライトは移籍直後の華々しい活躍が嘘のように打撃不調に苦しむMLBトップクラスの強肩ジョシュ・レディック

 そして、いよいよ開幕を迎えたわけだが、まず崩壊したのは投手陣。二桁勝利を達成してこれから飛躍が期待されたAJ・グリフィンとチームのエースになりかかっていたパーカーがトミー・ジョン手術で開幕前に脱落。A’sは先発ローテーションの2/5を失うという大惨事に見舞われた。その穴を埋めたのはロングリリーフからの転向組、チャベスとポメランツで、共に抜群の投球を披露し、特にポメランツは課題だった制球も安定しておおいに期待に応えた。もっとも、ノックアウトされた後にベンチを殴って骨折する杉内リスペクト行為で6月に故障者リスト入りしてしまったが。一方のチャベスも、MLBの投手としては異様に細い体格ながら鋭いカッターを武器に長いイニングを投げても安定感を見せた。短いイニングを全力で投げても被本塁打が多いのでむしろ先発の方がいいのかもしれない。とにかく、マイナー組織が非常に手薄なため昇格させる先発がいなかったA’sの前半戦はこの二人が救ったといっていいだろう。

 惨事は続く。新クローザーのジム・ジョンソンは顔を出すたびに失点を重ね、ついにクローザーを降ろされてしまった。この2年間クローザーを務めたバルフォアはとにかくセーブ失敗がないので地元でも非常に人気が高く、9回になると外野席のファンがずらりと並んでヘッドバンギングをしてテンションを高めるという儀式まで出来上がっていたくらいなので、不甲斐ない後継者にファンは容赦なくブーイングを浴びせていた。バルフォアがFAで高年俸になるという理由で獲得したのに高年俸でしかもバルフォア自身はメディカルチェックに引っかかってボルチモアへの移籍が破断になり格安でタンパベイに移籍したのだから余計に間が悪かった。チームは懸命にジョンソンの復活をフォローしていたが、点差がある場面であろうがどこで使っても結果を残せず、移籍先も見つからないまま月日は過ぎ去り、最終的には解雇となってしまった。

 しかしジョンソンの崩壊の一方でチームは代替となる戦力をきっちり確保できていた。新加入のエイバッドは神がかった投球を続け、年明け早々に獲得しておいたトミー・ジョン手術明けのエリック・オフラハティは夏以降復帰してから安定感のある投球で貴重な中継ぎとなった。ヴェンターズ、キンブレルと並んでアトランタのブルペンを支えたオフラハティが獲得できてきっちり復活し、おまけに2015年のオプションまであるのだから感動ものである。また、ケガ続きの野手だった若手が最後の手段で投手に転向したらシングルA級では誰も打てないことが判明し、ダブルAでもトリプルAでも三振の山を築くのでMLBに昇格したらミゲル・カブレラでさえ手こずる球を投げることがわかったという映画みたいな人生を歩んできたドゥーリトルがジョンソンに代わるクローザーに指名された。昨年からの持ち越しでダン・オテロは相変わらずシュートが冴え渡りゴロの山を築き、不調だったライアン・クックもそれなりに数字を残したのできっともうすぐいいトレードのネタになるだろう。

 そんな感じで、なんとなく前半を切り抜けたA’sだったが、不安要素はたくさんあった。まずグレイもチャベスやポメランツも年間を通して投げ切った実績がなく、ポメランツは上記のように杉内ってしまった。球速が持ち味のカズミアーも夏場以降はやや安定感を欠く投球が見受けられるようになり、先発のテコ入れは急務となった。実績のある先発投手はトレードで放出済みなので昇格というオプションはない。そこでビリー・ビーンと冷酷な仲間たちは他チームと次々と大型トレードをキメていく。まずマイナーリーグの若手有望株トップ一位のアディソン・ラッセルと昨年のドラフト一位のビル・マッキニー、先発経験もあるダン・ストレイリーをまとめてシカゴに放出し、FAまで半年しかないジェイソン・ハメルと2015年シーズン終了後にFAになるジェフ・サマージャを獲得。それからキューバ出身の選手として過去最高額で契約したセスペデスをボストンに送りやはりあと半年しか契約できないジョン・レスターを獲得した。レスターといえばガンから復活したボストンのエースでポストシーズンにもやたらと強いことで知られており、このトレードは今年こそはデトロイトの壁を打ち破るという意思の表れと当初は受け取られていたが、後のインタビューによればビリー・ビーンは事態はもっと切迫しているとみなしていたようで、レスター無しでポストシーズン進出は無理だと判断していたらしい。一方、二年連続ホームランダービーで優勝するなど地元でも人気の高かったセスペデスの放出はファンの間に大きなショックを与えた。ちなみにA’s残留と契約延長を希望していたセスペデスはインタビューによればトレードの知らせに泣きそうになったが、電話したら母親が大泣きしてしまいタイミングを失ったので泣けなかったそうだ。セスペデスの母は元キューバ代表のソフトボールの投手で、シドニー五輪に出場し120km/hを投げたこともある豪腕である。ちなみに、このトレードに触発されたのかデトロイトはデヴィッド・プライスを獲得するという大型トレードを敢行したが、ポストシーズンではヴァーランダーシャーザー、プライスの豪華三本立てできっちり三連敗して敗退し、ヴァーランダーは付き合っているグラビアアイドルのプライベート写真がiCloudから流出した。

 トレードの結果はまずまずだった。毎年前半しか活躍しないハメルは案の定ピリッとしない投球が続いたが、2014年のMLBで最もツキのなかった男サマージャはチームが変わってそれなりの打線の援護もあり、結果を残すことになる。レスターはさすがの投球で、観戦するたびに、ああ、いいピッチャーっていいピッチャーなんだなあと同語反復するしかない見事な活躍を見せた。

 だが、崩壊したのは投手陣だけではない。野手の成績もまたシーズンが進むにつれてひどい下降線をたどってみせた。毎年過小評価されるA’sについての記事を書く仕事を記者から奪い取るために今年のオールスターにはなんと5名もの選手がA’sから選出されたのだが、選ばれた野手のドナルドソン、モス、ノリスが揃ってシーズン中盤から後半に極端に成績を落とした。わかりやすいOPSだけで見ても、ドナルドソンは終盤やや持ち直したものの6月が.509、9-10月は.686と大きく下げた(2014シーズンのOPSは.798)。モスは8月のOPSが.548で9-10月が.613(シーズン.772)、ノリスは.560、.642(.763)だ。ほぼ独走かと思われた前半から結局エンジェルズに抜かれてワイルドカードでポストシーズンに進出するまで成績が落ちたのだから、先発投手陣の補強がなかったらと思うとぞっとする。いずれにせよ、怪我であろうが不調だろうが、原因は何であっても、打撃の主力がここまで一気に成績を落とすと前半と後半ではまるで別のチームになってしまった。また移籍したセスペデスも7月はOPSは.573、その後も8月こそ.754と持ち直したが9月は.680なのであまり足しにはならなかっただろう。そういえば新加入のニック・プントもフェルナンド・ロドニーの高めのボールがストライクとコールされてヘルメットを叩きつけて退場させられた際には奥さんが若い頃の自分のおっぱいより高かったとTweetして援護するもキャリア最低の打撃成績で終わってしまった。またジョン・ジェイソはこの数年ずっとシーズン途中で脳震盪とその後遺症により出場できなくなる問題が続いているが、2014年も結局同じように消えてしまった。もう捕手は無理だろう。ところでチームは怪我の多いキャッチャーの補強のため膝の手術からFAとなっていたジオバニー・ソトをシーズン終盤に獲得しているのだが、レギュラーでプレーしていた経験のあるベテランらしくは安心できる試合運びとプレーを見せてくれた。ノリスと比べるとその差は歴然だった。フロントの大勝利だろう。それから打線のテコ入れに特大ホームランか三振か三振か三振というA’sらしいベテランのアダム・ダンを年俸はホワイトソックス持ちで加入させた。ダンは今年で引退する意思を表明しており、現役選手で最も長い期間ポストシーズン経験がない記録を更新し続けていたので温情もあったのだろう。

 と、いろいろあって、なんとかポストシーズンに滑り込むことに成功したA’sは89年以来の進出となるカンザスシティと初のワンゲームプレーオフに臨む。先発は当然レスター、途中まで4点のリードを奪うものの、序盤にキャッチャーのソトが怪我で退場した途端、守備に難のあるノリスが6個も盗塁を許し、決勝点も盗塁で進んだランナーの生還で敗退してしまった。ダン・オテロのボールは確かにシュートしてくるくせ球かもしれないが、ウェストしたボールを落とすのだからノリスの技術には深刻な問題がある。まあ、いい試合ではあったけれど、レスターを獲得して今年こそはポストシーズンを勝ち進む姿を見たかったのに残念な結果となってしまった。あんなに無茶なトレードをしたのだから、来年以降のことなんかどうでもいいとなりふり構わず攻めたフロントの活躍も虚しく、2014年もまたいつものように3年連続でポストシーズンの最序盤でA’sは姿を消したわけだ。何が悲しいって、結局この試合にアダム・ダンは出場していないので、最後までポストシーズンの出場がないまま引退してしまったのだ。

 A’sのファンは負けてもまだ楽しみが残っている。オフシーズンこそがA’sのA’sたる所以なのだ。敗退直後、ビリー・ビーンは今頃息してないんじゃないかと思ったのもつかの間、A’sは次々と大型トレードを敢行する。まだ契約が残っているが年俸調停権を得たチーム最高のスター選手ドナルドソンをブレッド・ロウリーを含む1対4のトレードでトロントへ放出したのを皮切りに、ブランドン・モスを若手ジョー・ウェンドルとの交換でクリーヴランドへ、サマージャをフェグリーやセミアンを含む若手4人との交換でシカゴ・ホワイトソックスへ、そしてノリスを2投手と交換でサンディエゴへとそれぞれ放出してしまったのだから驚きだ。確かにいずれもトレード価値としては最高の時期にあるので最大の見返りを期待できるのだが、それにしても三年連続ポストシーズンに進出したチームをほぼ解体してしまったわけだから大胆極まりない。しかもロウリーをFAで失った後釜のショートにドリューやアズドルバル・カブレラのような有名選手を獲得するといわれていたのが蓋を開けてみれば(失敗しただけかもしれないが)MLBでショートの実績がないセミアンになるサプライズもあり(続報:ジョン・ジェイソ、アリゾナ・フォール・リーグで活躍したダニエル・ロバートソンとマイナーリーグで目覚ましい成績をあげながらアンフェタミンで50試合の出場停止を食らったブーグ・パウエルを放出してベン・ゾブリストユネル・エスコバルを獲得しましたよ)、やっぱりシーズン中より見ていて楽しい。そうそう、中心となる右打者としてビリー・バトラーと三年契約を結んだのも、契約延長のオプションを破棄した元の所属チームのカンザスシティーと比較すると意外な高評価であったため驚きの契約となった。

 結局、昨年やや高くなったチーム総年俸がまた10Mほど下がり、ギャングやスラムで有名な(ドラマ『サンズ・オブ・アナーキー』の舞台でもある)オークランドから富裕層の多いサンノゼに移転する計画も頓挫したまま貧乏球団であり続ける2015年シーズンを迎えることになったわけだが、おそらくマネーボールの第2章となるにふさわしい成功を遂げたこの3年間の体制はいったんここで終わりになり、来年からはまた新たな姿のチームに生まれ変わることになるのだろう。それがうまくいくのか、それとも2000年代後半のような低迷期となるのかはまだわからない。が、それでもこの低予算ゆえに頭と度胸でなんとかしなければならない宿命のA’sは見る者をまた楽しませてくれることは間違いない。

Posted by on 1月 8, 2015 in Baseball

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