T

IPO

IPOを目指す企業で働いたことがあるだろうか。

目指すといっても、結果的にそうなるといいなと経営者が夢見ているだけの企業もあれば、もう外部の監査が入っていて何年も厳しく管理された上で、毎年毎年狂ったように売上高を積み上げているところもあるので一概にはいえないだろうが、ここでは後者の方を指す。ところで、下に引用したのはかの有名なお話だが:

つまり、ぼくたちの業界では、人を二種類に分けることができる。一方は、会社を成功させたいために働きたい人。他方は、成功した会社で働きたい人だ。 Netscape の早期の成功と急速な成長により、ぼくたちには前者の人がこなくなり、後者の人ばかりが集まりだした。
Jamie Zawinski “resignation and postmortem.”

IPOのために集まった人がすなわち「会社を成功させたいために働きたい人」というわけではない。この人たちはボーグみたいな一枚岩的な存在じゃなくて、当然ながらそれぞれいろんな違いがある。どこかの落ちこぼれがやっと就職出来たところが「たくさん雇ってたくさん辞める」IPOを目指す企業だったなんてことは珍しくない。あるいは、本当にたまたま就職した企業が、いつのまにやらIPOを目指すようになっていたとか、そもそもIPOがなんだかわからなくて、入ってみたら妙なことになっていた、なんてこともあるだろう。開発者の場合、よほどの事情がない限り、Netscapeみたいな企業(どの段階であっても)に入ることができるようなケースはごく一握りのものだ。

そして、大変残念なことに、IPOを目指す企業で働くのは、開発者にとってたいていの場合は艱難辛苦の連続だ。受託開発やソフトウェアハウスでIPOを目指すなんて、よっぽどのことがない限り絶対にやめた方がいい。いくつか理由を考えてみた。

• スピードの追求、人件費のマジック

IPOを目指すからには、早く上場しないといけない。そうしないと、上場まではなんとか我慢しているという社員たちが、もっと早く上場しそうな企業にどんどん移籍してしまう。儲かるソフトウェアを安価で素早く大量に生産するための方法で、経営者によく知られているものがひとつだけある。それは、開発作業にのめり込んだらついつい没頭してしまう典型的な開発者のあなたを毎月300時間以上拘束して、口下手なあなたを会議でじゃんじゃん吊るし上げ、基本的にお人好しのあなたに裏ではやさしい声で将来の希望をささやき、世間知らずのあなたに社会の厳しさについての嘘話を吹き込み、それから同年代の平均より少し高い給料を払って、多少の遅刻には目をつぶり(休日出勤はこれでチャラになる)、人件費の節約のため決して開発者を増員したりしないことだ。そんな環境にあって、あなたがまだ開発者でいられるのは、あなたがどうしようもないほどの根っからの開発者で、周囲にもそんな人しか残っていないせいだ。

つまり、上場したら研究職を与えるとか、研究部門を作るとか、甘い未来を鼻先にぶら下げられて、人事不省に陥っている開発者たち。

• 管理職の謎

優秀な開発者は、基本的には出世には興味がない。それが「毎日好きなタスクだけをずっとやっていられる」という意味なら話は別だが、それが自分より明らかに技量のない連中にコードを書かせて、自分はExcelとPowerPointで会議用の資料を作り、連中がしくじったせいで起きた不具合の防止策について発表する立場になることであれば、興味がないというよりむしろ積極的に忌み嫌うところでもある。しかし、同時に、自分より明らかにダメな開発者がどんどん出世して、あいつならもっとひどいことをやらかしたのに、と思いながら、そいつが些細なミスで自分のことを怒鳴りつけているのを眺めるのが気持ちいいとも思えない。開発会社のキャリアパスについてはいろいろなところで同じことがいわれているが、同時にいろいろなところでさっぱりその議論が活かされていないのも事実だ。開発会社では出世は恐ろしく深刻な問題で、PGよりSEの方が職位が上ということでさえ、時にはあやしいものだったりする。ロクにコードも書けないで、経験だけ積んで調整業務(会議に出て資料を配ってしゃべること)は出来るようになっても、開発者としてのセンスや知識はさっぱりの人なんてざらにいて、それでも仕様策定という空洞化したプロセスはSEの技量にかかっているので、必然的に案件は燃え上がる。

100人の社員がいるガチガチの開発会社より、本当に優秀な開発者が2人いるだけの零細企業の方が、きっと1人あたりの稼ぎはいいだろう。大規模開発のウォーターフォールと少人数の開発スタイルのいいところを兼ねたスタイルを模索する企業もあるという噂だが、周囲にそんなところがあるとは聞いたことがない。インターネットの中にしかないんじゃないかと思うこともある。カンファレンスで聞いたところでは、Zend Frameworkの開発スタイルはどちらかというとそれに近いという話だったが、ZendがIPOを目指す新興企業といえるかといえば、そうでもないだろう。

これを是正しようとすると、結局のところ開発者が社長をやらなければいけなくなってしまう。そして、社長になると、やっぱり開発からは遠ざかってしまうというジレンマがある。

その答えが、はてなだという人もいるけど、Perlで仕事したいとも思えないしなあ。

Technorati Tags: ,

Posted by on 2月 4, 2007 in Work

コメントを残す