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2014年のオークランド・アスレティックス

 まさかの2連覇を果たしても順位予想は2位か3位という悲しきアンダードッグ、オークランド・アスレティックスの2014年は割と地味に始まった。

 まず投手陣。補強されたのは無名の若手とのトレードで移籍したフェルナンド・エイバッドセス・スミスと交換でやって来たルーク・グレガーソン。球は速いがコントロールに難がある左投手と、中継ぎのくせに球速はないがスライダーを多投してタイミングを外すことに専念する地味な右投手だ。実績のあるグレガーソンは2015年にはFAなので1年限りの腰掛け移籍である。このエイバッドの獲得もあってか、この数年左のワンポイントから割と長いイニングまで投げていたジェリー・ブレヴィンズ(日米野球で来日してましたね)がところてん式に放出され、小柄で全くパワーがないがやたらめったら足の速いビリー・バーンズが加入している。ブレヴィンズ、どういうわけかやたらとイチローを苦手としていたのでナショナルリーグに移籍できてよかった。そして華々しいルーキー時代の活躍から一転、長期契約を獲得した直後からずっと怪我で出場していなかったブレット・アンダーソン(北京五輪の三位決定戦で日本相手に勝ち投手になった人)が放出され、これまたなかなか芽が出ずポテンシャルの高さだけは定評のあった長身左腕ドリュー・ポメランツとトレードされた。それからなんといっても驚きだったのは独立リーグを経てMLBに復帰したスコット・カズミアーの獲得だ。『マネーボール』に出てくるカージマー、といえば通りがいいかもしれない。そう、あの有名なドラフトのシーンでメッツが獲得したお陰でビリー・ビーンがずっと狙っていたスウィッシャーを見事A’sにもたらした、あの高卒ルーキーが何の因果かA’sに入るのだ。2013年シーズンはクリーヴランドで好成績を挙げてカムバック賞まで獲得したのだが、独立リーグ時代に著名なピッチングコーチから指導されていたらしく、驚くべきことにそのコーチは今は元A’sのエースにしてFAで巨額+長期契約を獲得した途端に二流の先発投手に成り下がったまま無事契約満了してバイアウト$7Mまで手に入れて、悪名高い代理人スコット・ボラスと一緒にサンフランシスコ・ジャイアンツを骨までしゃぶった挙句、当然のように契約してくれるチームがなくなり引退状態だったバリー・ジートを指導しているとのこと。これで2014年のローテーションはカズミアー、グレイA J・グリフィンパーカーとなり、残り一枠はトミー・ミローンが有力視されていたが、加えてソフトバンクが数年前に獲得し損ねたジェシー・チャベスとポメランツが争うことになった。また昨年までのクローザーで地元の人気選手、オーストラリア人のグラント・バルフォアがFAで高給取りになるので、新しいクローザーとして昨年まで2シーズンで100セーブを達成しているジム・ジョンソンが入ることになった。松井がサヨナラホームランを放ったことがあるベテランでシンカーを多投する地味な選手だが実績は十分だ。

 野手の補強はもっと地味で、まず全くの期待外れだったクリス・ヤングを解雇して、地元出身のユーティリティのニック・プントを獲得。ショートも守れるので中島が全く使えないと判断された以上は必要な補強だ。それから、レイズからFAになったサム・ファルドを獲得している。ファルドはどうやらかなり前から狙っていたようで、守備が上手で足が使えてボール球を振らず勉強も出来るという、最近のA’sが好みそうな選手だ。これでチームにはジェド・ロウリーとファルドという二人のスタンフォード出身(しかも元チームメイト)が在籍することになった。スタンフォードといえば最近ではGoogleみたいな企業で有名だが、主席で卒業しながら若いうちは野球をやるとMLBに入り通算270勝を挙げた上に20勝した年に引退したマイク・ムッシーナ(歴史上20勝して引退したのはサンディ・コーファックス以来42年振りらしい)や、飛び級で3年で卒業した秀才なのに西武ライオンズや日本の独立リーグでもプレーしたクリス・カーターのように面白い野球選手を外出していることでも有名だ。ロウリーも奥さんが外交官で本人も野球関係の文章を新聞に寄稿するちょっとした文化人だったりする。いずれにせよ、途中ポジションがかぶっているジェントリーを昇格させるためウェイバー扱いになりミネソタに移籍したファルドをトレード期限までに先発投手を放出してまで再獲得したのだから、A’sはよっぽどファルドに何かを見出しているのだろう。

 2014年のA’sは昨年に続いてプラトーン戦略を継続し、強力な投手陣に支えられてペナントを制するという戦術でシーズンに臨んだ。スティーヴン・ヴォートが怪我で出遅れ、野手はこんな布陣になった:捕手は右投手にだけ異様に強いジョン・ジェイソと、長打力はあるが守備はお粗末なデレク・ノリスが併用。一塁は右投手が相手なら超一流のホームラン打者ブランドン・モスと左投手用にネイト・フレイマン、二塁はアマ時代は強打で知られた守備のいいオタク顔でシーズンオフには嫌がらせのような大量の票を集め「Face of MLB」投票で決勝まで勝ち進んだエリック・ソガードが右投手用で、DV事件を起こして逮捕歴もありとにかく三振しないが守備に難があるアルベルト・カヤスポが左投手用。三塁はこのチームには珍しく固定されているが、それは有名選手と若手数人のトレードで加入したパッとしない控え捕手から内野にコンバートされた途端に急成長しトリプルAで四割を打って昇格後はMVP級の選手になったチーム最高のスター選手ジョシュ・ドナルドソンが入るからだ。ちなみに同じトレードでA’sに入ってきた選手に阪神のマット・マートンがいる。ショートにはおそらくレギュラーとしてはMLB全球団で最低の守備範囲を誇る両打ちのジェド・ロウリー。レフトはなんだかんだいってセンターから素直にコンバートされレフトにしては送球がいいので捕殺の多いヨエニス・セスペデス、センターは衰えたとはいえまだまだ広い守備範囲とMLBの外野手として最低レベルの肩でとうとうマイク・トラウトにセンターフライで一塁から二塁に走られた(間一髪でアウト)両打ちのココ・クリスプ、ライトは移籍直後の華々しい活躍が嘘のように打撃不調に苦しむMLBトップクラスの強肩ジョシュ・レディック

 そして、いよいよ開幕を迎えたわけだが、まず崩壊したのは投手陣。二桁勝利を達成してこれから飛躍が期待されたAJ・グリフィンとチームのエースになりかかっていたパーカーがトミー・ジョン手術で開幕前に脱落。A’sは先発ローテーションの2/5を失うという大惨事に見舞われた。その穴を埋めたのはロングリリーフからの転向組、チャベスとポメランツで、共に抜群の投球を披露し、特にポメランツは課題だった制球も安定しておおいに期待に応えた。もっとも、ノックアウトされた後にベンチを殴って骨折する杉内リスペクト行為で6月に故障者リスト入りしてしまったが。一方のチャベスも、MLBの投手としては異様に細い体格ながら鋭いカッターを武器に長いイニングを投げても安定感を見せた。短いイニングを全力で投げても被本塁打が多いのでむしろ先発の方がいいのかもしれない。とにかく、マイナー組織が非常に手薄なため昇格させる先発がいなかったA’sの前半戦はこの二人が救ったといっていいだろう。

 惨事は続く。新クローザーのジム・ジョンソンは顔を出すたびに失点を重ね、ついにクローザーを降ろされてしまった。この2年間クローザーを務めたバルフォアはとにかくセーブ失敗がないので地元でも非常に人気が高く、9回になると外野席のファンがずらりと並んでヘッドバンギングをしてテンションを高めるという儀式まで出来上がっていたくらいなので、不甲斐ない後継者にファンは容赦なくブーイングを浴びせていた。バルフォアがFAで高年俸になるという理由で獲得したのに高年俸でしかもバルフォア自身はメディカルチェックに引っかかってボルチモアへの移籍が破断になり格安でタンパベイに移籍したのだから余計に間が悪かった。チームは懸命にジョンソンの復活をフォローしていたが、点差がある場面であろうがどこで使っても結果を残せず、移籍先も見つからないまま月日は過ぎ去り、最終的には解雇となってしまった。

 しかしジョンソンの崩壊の一方でチームは代替となる戦力をきっちり確保できていた。新加入のエイバッドは神がかった投球を続け、年明け早々に獲得しておいたトミー・ジョン手術明けのエリック・オフラハティは夏以降復帰してから安定感のある投球で貴重な中継ぎとなった。ヴェンターズ、キンブレルと並んでアトランタのブルペンを支えたオフラハティが獲得できてきっちり復活し、おまけに2015年のオプションまであるのだから感動ものである。また、ケガ続きの野手だった若手が最後の手段で投手に転向したらシングルA級では誰も打てないことが判明し、ダブルAでもトリプルAでも三振の山を築くのでMLBに昇格したらミゲル・カブレラでさえ手こずる球を投げることがわかったという映画みたいな人生を歩んできたドゥーリトルがジョンソンに代わるクローザーに指名された。昨年からの持ち越しでダン・オテロは相変わらずシュートが冴え渡りゴロの山を築き、不調だったライアン・クックもそれなりに数字を残したのできっともうすぐいいトレードのネタになるだろう。

 そんな感じで、なんとなく前半を切り抜けたA’sだったが、不安要素はたくさんあった。まずグレイもチャベスやポメランツも年間を通して投げ切った実績がなく、ポメランツは上記のように杉内ってしまった。球速が持ち味のカズミアーも夏場以降はやや安定感を欠く投球が見受けられるようになり、先発のテコ入れは急務となった。実績のある先発投手はトレードで放出済みなので昇格というオプションはない。そこでビリー・ビーンと冷酷な仲間たちは他チームと次々と大型トレードをキメていく。まずマイナーリーグの若手有望株トップ一位のアディソン・ラッセルと昨年のドラフト一位のビル・マッキニー、先発経験もあるダン・ストレイリーをまとめてシカゴに放出し、FAまで半年しかないジェイソン・ハメルと2015年シーズン終了後にFAになるジェフ・サマージャを獲得。それからキューバ出身の選手として過去最高額で契約したセスペデスをボストンに送りやはりあと半年しか契約できないジョン・レスターを獲得した。レスターといえばガンから復活したボストンのエースでポストシーズンにもやたらと強いことで知られており、このトレードは今年こそはデトロイトの壁を打ち破るという意思の表れと当初は受け取られていたが、後のインタビューによればビリー・ビーンは事態はもっと切迫しているとみなしていたようで、レスター無しでポストシーズン進出は無理だと判断していたらしい。一方、二年連続ホームランダービーで優勝するなど地元でも人気の高かったセスペデスの放出はファンの間に大きなショックを与えた。ちなみにA’s残留と契約延長を希望していたセスペデスはインタビューによればトレードの知らせに泣きそうになったが、電話したら母親が大泣きしてしまいタイミングを失ったので泣けなかったそうだ。セスペデスの母は元キューバ代表のソフトボールの投手で、シドニー五輪に出場し120km/hを投げたこともある豪腕である。ちなみに、このトレードに触発されたのかデトロイトはデヴィッド・プライスを獲得するという大型トレードを敢行したが、ポストシーズンではヴァーランダーシャーザー、プライスの豪華三本立てできっちり三連敗して敗退し、ヴァーランダーは付き合っているグラビアアイドルのプライベート写真がiCloudから流出した。

 トレードの結果はまずまずだった。毎年前半しか活躍しないハメルは案の定ピリッとしない投球が続いたが、2014年のMLBで最もツキのなかった男サマージャはチームが変わってそれなりの打線の援護もあり、結果を残すことになる。レスターはさすがの投球で、観戦するたびに、ああ、いいピッチャーっていいピッチャーなんだなあと同語反復するしかない見事な活躍を見せた。

 だが、崩壊したのは投手陣だけではない。野手の成績もまたシーズンが進むにつれてひどい下降線をたどってみせた。毎年過小評価されるA’sについての記事を書く仕事を記者から奪い取るために今年のオールスターにはなんと5名もの選手がA’sから選出されたのだが、選ばれた野手のドナルドソン、モス、ノリスが揃ってシーズン中盤から後半に極端に成績を落とした。わかりやすいOPSだけで見ても、ドナルドソンは終盤やや持ち直したものの6月が.509、9-10月は.686と大きく下げた(2014シーズンのOPSは.798)。モスは8月のOPSが.548で9-10月が.613(シーズン.772)、ノリスは.560、.642(.763)だ。ほぼ独走かと思われた前半から結局エンジェルズに抜かれてワイルドカードでポストシーズンに進出するまで成績が落ちたのだから、先発投手陣の補強がなかったらと思うとぞっとする。いずれにせよ、怪我であろうが不調だろうが、原因は何であっても、打撃の主力がここまで一気に成績を落とすと前半と後半ではまるで別のチームになってしまった。また移籍したセスペデスも7月はOPSは.573、その後も8月こそ.754と持ち直したが9月は.680なのであまり足しにはならなかっただろう。そういえば新加入のニック・プントもフェルナンド・ロドニーの高めのボールがストライクとコールされてヘルメットを叩きつけて退場させられた際には奥さんが若い頃の自分のおっぱいより高かったとTweetして援護するもキャリア最低の打撃成績で終わってしまった。またジョン・ジェイソはこの数年ずっとシーズン途中で脳震盪とその後遺症により出場できなくなる問題が続いているが、2014年も結局同じように消えてしまった。もう捕手は無理だろう。ところでチームは怪我の多いキャッチャーの補強のため膝の手術からFAとなっていたジオバニー・ソトをシーズン終盤に獲得しているのだが、レギュラーでプレーしていた経験のあるベテランらしくは安心できる試合運びとプレーを見せてくれた。ノリスと比べるとその差は歴然だった。フロントの大勝利だろう。それから打線のテコ入れに特大ホームランか三振か三振か三振というA’sらしいベテランのアダム・ダンを年俸はホワイトソックス持ちで加入させた。ダンは今年で引退する意思を表明しており、現役選手で最も長い期間ポストシーズン経験がない記録を更新し続けていたので温情もあったのだろう。

 と、いろいろあって、なんとかポストシーズンに滑り込むことに成功したA’sは89年以来の進出となるカンザスシティと初のワンゲームプレーオフに臨む。先発は当然レスター、途中まで4点のリードを奪うものの、序盤にキャッチャーのソトが怪我で退場した途端、守備に難のあるノリスが6個も盗塁を許し、決勝点も盗塁で進んだランナーの生還で敗退してしまった。ダン・オテロのボールは確かにシュートしてくるくせ球かもしれないが、ウェストしたボールを落とすのだからノリスの技術には深刻な問題がある。まあ、いい試合ではあったけれど、レスターを獲得して今年こそはポストシーズンを勝ち進む姿を見たかったのに残念な結果となってしまった。あんなに無茶なトレードをしたのだから、来年以降のことなんかどうでもいいとなりふり構わず攻めたフロントの活躍も虚しく、2014年もまたいつものように3年連続でポストシーズンの最序盤でA’sは姿を消したわけだ。何が悲しいって、結局この試合にアダム・ダンは出場していないので、最後までポストシーズンの出場がないまま引退してしまったのだ。

 A’sのファンは負けてもまだ楽しみが残っている。オフシーズンこそがA’sのA’sたる所以なのだ。敗退直後、ビリー・ビーンは今頃息してないんじゃないかと思ったのもつかの間、A’sは次々と大型トレードを敢行する。まだ契約が残っているが年俸調停権を得たチーム最高のスター選手ドナルドソンをブレッド・ロウリーを含む1対4のトレードでトロントへ放出したのを皮切りに、ブランドン・モスを若手ジョー・ウェンドルとの交換でクリーヴランドへ、サマージャをフェグリーやセミアンを含む若手4人との交換でシカゴ・ホワイトソックスへ、そしてノリスを2投手と交換でサンディエゴへとそれぞれ放出してしまったのだから驚きだ。確かにいずれもトレード価値としては最高の時期にあるので最大の見返りを期待できるのだが、それにしても三年連続ポストシーズンに進出したチームをほぼ解体してしまったわけだから大胆極まりない。しかもロウリーをFAで失った後釜のショートにドリューやアズドルバル・カブレラのような有名選手を獲得するといわれていたのが蓋を開けてみれば(失敗しただけかもしれないが)MLBでショートの実績がないセミアンになるサプライズもあり(続報:ジョン・ジェイソ、アリゾナ・フォール・リーグで活躍したダニエル・ロバートソンとマイナーリーグで目覚ましい成績をあげながらアンフェタミンで50試合の出場停止を食らったブーグ・パウエルを放出してベン・ゾブリストユネル・エスコバルを獲得しましたよ)、やっぱりシーズン中より見ていて楽しい。そうそう、中心となる右打者としてビリー・バトラーと三年契約を結んだのも、契約延長のオプションを破棄した元の所属チームのカンザスシティーと比較すると意外な高評価であったため驚きの契約となった。

 結局、昨年やや高くなったチーム総年俸がまた10Mほど下がり、ギャングやスラムで有名な(ドラマ『サンズ・オブ・アナーキー』の舞台でもある)オークランドから富裕層の多いサンノゼに移転する計画も頓挫したまま貧乏球団であり続ける2015年シーズンを迎えることになったわけだが、おそらくマネーボールの第2章となるにふさわしい成功を遂げたこの3年間の体制はいったんここで終わりになり、来年からはまた新たな姿のチームに生まれ変わることになるのだろう。それがうまくいくのか、それとも2000年代後半のような低迷期となるのかはまだわからない。が、それでもこの低予算ゆえに頭と度胸でなんとかしなければならない宿命のA’sは見る者をまた楽しませてくれることは間違いない。

2013年のオークランド・アスレティックス

昨年の優勝にも関わらず、うちのお兄ちゃんも大好きな日本スポーツ企画出版社の雑誌「スラッガー」でも今期の予想は3位だったオークランド・アスレティックス。テキサス・レンジャーズの大幅な失速もあって、とうとうアメリカンリーグの西地区二連覇を達成してしまいましたよ。

今日までにマジックは残り1だったので、優勝は試合途中にダイアモンドヴィジョンに放映されていたようにカンザスシティーがサヨナラ満塁ホームランでテキサスに勝った時点で決まってはいたのですが、最後にスクリブナーが勝ってもあんまりうれしくなさそうなのは自身がリリーフで2失点してしまっていたからですね。ご愛嬌です。

でも、感動がない試合だったわけではありません。今年だけで二度もウェーバー公示されたのを跳ね返してメジャーに昇格したダリック・バートンが優勝を決めた試合でホームランを放っています。二度も公示されてまだ元のチームにいるということは、二度ともどこのチームも獲得の意志を示さなかったという厳然たる事実をあらわしているわけですが、そんな選手が最後に這い上がって8月は一塁手のレギュラーとして活躍しているというのは素晴らしいと思います。左打ちのバートンは本来右投手用の一塁手なのですが、左投手用の一塁手として今年デビューして好成績を残しているフライマンが打撃練習中に怪我をしてからは不動のレギュラー(主に9番バッター)として出場し、打率3割と結果を残しています。この選手、一塁の守備には定評がある、というかもはや名手という評価を得ているのですが、実は元キャッチャーで、打力を評価されてオークランドに移籍してから内野手に転向しています。まるでハッテバーグの再来ですが、打撃もまたハッテバーグと同じような評価を受けていた選手でした。しかし、2007年のデビュー時には鮮烈な印象を残したものの、その後は友人宅のプールに飛び込んで頭を打って重傷を負ったり、2010年の再デビューで273/393/405という「ちょっと長打力は見落としするけどフランチャイズの見本となる高い出塁率」にリーグ最高の110四球でレギュラー確定といわれたのも束の間、相手投手に対策されて以降は怪我もありズルズルと衰退していったその姿は多くのファンをがっかりさせました。しかしAAAサクラメントでしっかり実績を残して這い上がってきたのは評価に値します。AAAでは三塁手としても出場していたのですが、どのポジションでもいいので来期もなんとか残留してもらいたいものです。

バートンと同じくキャッチャーから転向した内野手として、今年はジョシュ・ドナルドソンのブレークした年として語り継がれることになるでしょう。当時のレギュラー捕手だったカート鈴木の牙城を崩すことが出来なかったアンソニー・レッカー(デビュー戦で20失点)やランドン・パウエルといったキャッチャーの一人として選手寿命を終えるかに思われたドナルドソンでしたが、昨年の後半から一気に打力が開花し、おまけに守備力も大変高いことが判明して、リーグでもトップクラスの三塁手となりました。なんといっても「同一ポジションで置換可能な平均的選手と比較してどれだけ勝利を上積みしたか」を示す指標WARでは7を越えているわけですから、ミゲル・カブレラエヴァン・ロンゴリアといったビッグネームに堂々と肩を並べる成績を叩き出していることになります。特に左投手を相手にした場合はミゲル・カブレラの少し下、ようするにまともな人間なら最高峰といえる成績なのですから文句のつけようがありません。今では完全にフランチャイズの顔になった感があります。父親が5歳で刑務所に収監された厳しい環境の中、子供時代はひどいいじめに遭ってキリスト教系の学校に転校して難を逃れるなど苦労してきたドナルドソンですが、2013年になって実父が初めて彼のプレーを観戦し、その目の前で四球2つに二塁打と三点本塁打と大活躍しました。ちなみに、ドナルドソンがオークランドにトレードされたとき、一緒にシカゴ・カブズから移籍した選手たちの中には阪神でプレーしているマット・マートンもいました。移籍後すぐの試合で四番で出場していたのは驚きでした。

それと、野手で特筆すべきはエリック・ソガードでしょう。どうやらやまもといちろうから放出だろとけなされていたようですが、それも今は昔(あ、このトレードは大成功でしたよ、膝が死んでるスウィーニーと毎年2ヶ月は休むし今年は上原の引き立て役になったベイリーをレディックと交換しましたからね)、昨年ブレークしたセスペデス、レディック、モスらがことごとく不振に苦しむ中、右投手用の二塁手としてその地位を安定させたのはファンにとっては大きな喜びでした。MLBでは珍しい眼鏡でプレーすることから、#nerdpowerのハッシュタグまで用意される人気ぶりです。

ヤンキーズ戦で目の覚めるようなロングリリーフを見せたジェシー・チャベスがナポレオン・ダイナマイトのセリフを決めるのが素晴らしいです。

今年のチームはキャッチャー受難の年でした。開幕戦のキャッチャーだったジョン・ジェイソは試合中に二度もマスク越しとはいえファールチップが直撃した影響で脳しんとうとその後遺症の治療のため最後の一ヶ月間をリハビリに費やす状況、左投手に極端に弱い(右が相手ならバリー・ボンズになる)ジェイソを補強する右打ちの捕手デレク・ノリスは今年から加入したベテラン外野手クリス・ヤングにベテラン選手と間違えられた老け顔をマスクで隠して活躍していましたがホームベース上のクロスプレーでつま先を骨折してしまいました。しかし、カート鈴木が「このまま安定した成績を残し続けたら高年俸になって雇い続けられなくなる」という危機感を募らせていたチームは捕手の層を分厚くしていたため、この状況が28歳のほとんどメジャーで実績のない左打ちの捕手スティーヴン・ヴォートが昇格して4本の本塁打を放つきっかけとなりました。そして、デレク・ノリスの怪我の後には、高年俸になることが予測されたので放出されたカート鈴木が、ええと、そのう、まあ、ぶっちゃけ年々成績が下降して移籍先でくすぶっていたのを再度トレードで獲得して、総じて守備に不安のある捕手陣がおおいに補強されることになったのでした。オークランドの低迷期を孤軍奮闘で支えていたカート鈴木の帰還はファンに熱烈に歓迎されました。おかえりキヨシくん、おっさんはとってもうれしいよ。

昨年も派手な補強は実現しなかったのですが、今年もトレードデッドラインまでにルーキーのグランド・グリーンを放出してアルベルト・カヤスポをエンジェルズから獲得しただけにとどまりました。これでソガード、ラウリーと共に複数ポジションをこなせるミドルインフィールダーが3人揃ったので、誰が故障してもカバー出来る体制が強化されました。個人的には野球選手に人格を求めることはしないので、まあどうでもいいことなのですが、カヤスポは2007年にDVで逮捕されています。その後告訴は取り下げられ、夫婦は子供と一緒にまだ暮らしているそうですが、かつてエンジェルズに在籍したチャック・フィンリーは妻から受けた激しい暴力に苦しみ離婚しているわけで、カヤスポも少しは彼を見習うといいと思います。

とはいえ、オークランドを支えているのは、その強力な投手陣です。毎年安定してあまりに強力なので、まるで所与の存在のように思われてしまいがちですが、当然ながらそんなわけはありません。まあ、もちろん悪いケースもあるのでまずはそちらからあげていきます。長期契約した途端に怪我ばかりしているブレット・アンダーソンは相変わらず今年も怪我のため活躍できず、シーズン終盤になって大差のついた試合で失点しまくって、アウトは誰にも打てないスライラーでポンポンと三つ続けて三振で取るというプレシーズンマッチ仕様の投球を続けてシーズンを中抜きし、今からポストシーズンに備えるという贅沢ぶりです。実は彼は高校時代にはその投球よりも打撃力で有名で、同年代にハンク・コンガートラヴィス・スナイダーがいる中で堂々の打撃三冠王だったらしいので、ナショナルリーグへの移籍も真剣に検討した方がいいのかもしれません。その他、薬物疑惑のジョーダン・ノルベルトが早々に契約を切られ、昨年の活躍で慢心したかスプリングトレーニングで散々な投球を披露したオーストラリアの投手トラヴィス・ブラックリーも契約を解除されました。そして何より、昨年産まれたお子さんが産後24時間以内に急死するという悲劇に見舞われた右の変則投法のパット・ネシェックが今年は途中まで踏ん張っていたものの後半にひどい内容の投球が続き、おそらく来年の契約はないと予想されています。残念なことです。

それ以外は、リーグ最高レベルの投手陣としか言いようがない充実したラインナップでした。先発は昨年PEDの禊ぎで50試合出場停止処分を済ませ40歳にして球速が上がったバートロ・コローンを筆頭に、ジャロッド・パーカーA・J・グリフィンダン・ストレイリートミー・ミローンという陣容でしたが、コントロールが生命線のミローンのコントロールが安定せず、ここには新人のソニー・グレイが入ることになりました。グレイはオークランドにドラフト1位指名された当時は最もMLBに近い新人投手として注目を集めていましたが、小柄な右投手として制球力を向上させるよう要求された影響で本来のピッチングが出来ず、なかなか結果が残せなかったことから以前のいい加減な制球で球威で押すタイプに変更したところ成功してMLBデビューを果たしました。そういえば同じようなタイプで同じような問題に苦しんでいたブラッド・ピーコックも今年ようやく移籍先のヒューストンで結果を出すことが出来ましたね。彼らのようなスタイルは悪い時にはどうしようもなくなるので早い回でノックアウトされることもあるのですが、グレイは今のところそれなりの結果を残しています。早く強力なシンカーでも覚えてティム・ハドソンのようになってもらいたいものです。

今年のコローンの成績はかつてサイヤング賞を獲得した年よりも上かもしれません。右打者のインコース、左打者のアウトコースに向かって異常に曲がるツーシームと終盤になると95マイル(152km)を越える速球、投球の7割以上がストライクという制球力を武器に神懸かり的な成績を残しています。ただし、昨年のPED問題があるので二度目のサイヤング賞は考えにくいでしょう。一方、ジャロッド・パーカーは5月以来ずっと負け知らずの投球を続け、先週ついに病気のためローテーションを一度飛ばした後の登板でようやく負け投手になったくらいの好投が続きました。往年の槙原を彷彿とさせるいいピッチャーなので今後が楽しみです。

球場の移転問題がずっと議論されているオークランドですが、先発投手を眺めるとちゃっかり現在の球場の利点を活かすようにフライボールピッチャーを並べているのが面白いですね。A・J・グリフィンに至ってはリーグ最多の被本塁打というおまけつきです。広くてフェンスが高くておまけにファールグラウンドが広大なオークランドの球場は老朽化のため今年も何度も下水道のトラブルに見舞われていますが、若手の先発投手たちにとってはありがたい存在のようです。この強力な先発陣を支えるのがこれまたリーグ最高峰のリリーフ陣です。ロングマンには先述のジェシー・チャベスがいます。AAAでは先発なので、延長18回のとんでもない試合で6イニングを投げることも平気です。先発が手薄な他球団には喉から手が出るほど欲しい人材なのではないでしょうか。ジェリー・ブレヴィンズは投げ方を見ると左のワンポイントに見えますが実はそれなりに長いイニングをこなすことも出来て、昨年から安定感のある投球を続けており、イチローを極端に苦手にしている以外は頼れる左投手です。先発投手と彼らロングマンが試合を作ればもうしめたもので、後はいつものメンツが手ぐすねを引いて待ち構えています。左のショーン・ドゥーリトルは152kmから155kmくらいの真っ直ぐを投げ込む左投手です。以前、王監督がインタビューで左の速いピッチャーは本当に打てないと感慨深く(おそらく江夏を思い浮かべて)語っているのを見たことがありますが、ドゥーリトルの真っ直ぐもまた本当に打たれません。そして何より、2年前まで彼は将来を嘱望された強打の一塁手だったのが感慨深いです(大学時代は投手と一塁手の二足のわらじでした)。管理のしっかりしているメジャーリーグですから、オリックスの嘉瀬のように酷使されて肩を壊してしまうこともなく活躍してくれることを祈ります。ドゥーリトルと同じく中継ぎのエース格なのが2012年のオールスターに出場したライアン・クックです。こちらも150kmを越えるストレートを投げますが、ドゥーリトルがフォーシームで浮き上がってくるような直球なのに対して、クックの場合は打者の近くでストンと落ちるようなツーシームが主体です。最近あまり調子が良くないのが気がかりです。そして9回にメタリカの昔のヒット曲「One」をバックに登場するのが、ノームのキャラクターとマウンドで怒り狂ったように叫び散らすスタイルで人気のオーストラリア人、グラント・バルフォアです。外野席のファンはイニングの前から立ち上がり頭を前後に振り続けて怒りの表現に加担します。実はバルフォアには素直な回転のフォーシームとカーブ、スライダー、チェンジアップというオーソドックスな球種しかなく、直球もそれほど速いというわけでもない(せいぜい150kmくらい)のですが、制球がいいときはかなり結果を残すので、なんと今年は昨年から続いた連続機会セーブでチームの永久欠番デニス・エカーズリーが持つ球団記録を破ってしまいました。

オークランドの戦術は、この強力な投手陣を最大限に活用するものです。上原浩治が何を言ったとしても、先発投手はチームの最高の投手です。後ろのピッチャーは、どんなにいい投手であっても、やはり「短いイニングであればいいパフォーマンスを発揮する投手」でしかありません。だって、そんなにいい投手であれば、先発して試合の大半のイニングを任せるのが理にかなっているわけですから。また、終盤になればなるほど、リリーフも優秀な投手が出てくることになります。そこで、先発投手を早く降板させることが有利に試合を進める鍵になるわけですが、オークランドの場合は、とにかく相手投手に球数を投げさせることでこれを実現しています。特にマックス・シャーザーのようにひたすら豪腕でねじ伏せる投手が相手なら、彼はMLBで20勝以上するのですから当然なかなか打てないわけですが、可能な限りボールを見極めてたくさん球数を放らせることにより、5回くらいで降板せざるを得ない状況を作り出す作戦で対抗するのです。そうすることで、シャーザーと比較すれば豪雨と春雨くらいの差があるリリーフ投手たちに襲いかかって勝利をもぎ取ることが出来るわけです。こんな単純な作戦がどこまで通じるのかという話もありますが、意外と通じちゃってるんですよね。ダルヴィッシュが相手のときなど、三振なんかどうでもいいから、最後に勝てばそれでよしという感じの割り切った攻め方が非常に印象的でした。まるで昔のオーストラリア代表チームが松坂を打ち崩した試合みたいですね。今年の甲子園では花巻東の選手がわざとファールを打ち続けて相手投手を疲れさせるバッティングを披露し賛否両論を呼びましたが、もちろんメジャーリーグでそんなことをしても150kmを越えるストレートを相手にそんなことをするのは無理です。実際、アスレティックスも別にそんなことをしているわけではありません。単純にタイミングの合わない投球には手を出さなかったり早いカウントから狙ったボール以外に手を出さないようにしながら機会を伺っているだけなので、球数を投げさせるという戦術を非難するような声は特にありません。

さて、これからいよいよポストシーズン、まずはデヴィジョンシリーズが始まるわけですが、去年はここでデトロイトに最終戦までもつれて敗退しました。デトロイトの絶対的なエース、ヴァーランダーが強力な投球内容で立ち塞がり、オークランド・アスレティックスの「疲れた先発を降板させてリリーフに襲いかかる」いつもの戦法が通じないように、いつもは100球程度で降板するのになんと120球も投げて完投するという荒技で第5戦をもぎ取られてしまいました。デトロイトの3勝2敗の内の2つはヴァーランダーだったわけで、彼の存在が明暗を分けたといっても過言ではありません。今年もデトロイトは強力な先発投手陣を揃えています。今日までにボストン・レッドソックスとオークランドの2チームがポストシーズンに進出を決めていますが、残り2枠の1つは間違いなくデトロイトです。あとはこの3チームの順位次第で対戦相手が決まります。ワイルドカードで進出してくるチームはまだまだ予想できませんが、出来ればそちらと対戦してもらいたいような気がします。まあ、短期決戦なので何が吉と出るかは全くの運ですから、何が有利で何が不利なのかもわかりませんけれど。

2013年前半のオークランド・アスレティックス

この数年ずっと一年か半年毎に書いている、自分とうちのお兄ちゃんが楽しむためだけのシリーズ。

昨年、映画『マネーボール』の公開とともに低かった前評判を覆してシーズン最後の試合で逆転するというマンガのような展開でアメリカンリーグ西地区優勝を果たしたオークランド・アスレティックスだったが、今年も前評判は低く、だいたいどのメディアでも3位くらいの予想でシーズンに入った。5チームしかいない地区の3位で、しかも残り2チームはあのやる気のないヒューストン・アストロズと能力のないシアトル・マリナーズなのだから、まったくもって侮辱的な予想である。しかし、昨年と比較すると、例によってそれほど大きな補強もなく、抜けたのが開幕投手経験豊かなショートクラブハウスのリーダーにして右の代打の切り札と、一言でいえばチームの要が全部と聞けばまあ誰だってあまりいい予想はしないだろう。相変わらずのオンボロ球場に巣食う、選手の年俸総額はMLB全体で下から3番目くらいの、好景気に湧くお隣のサンフランシスコをいびつな嫉妬の目で睨み続ける貧乏球団であるのはいつもの通り。

昨年オークランドが優勝した背景にある戦術はだいたいこんな感じだった。打者の成績には対戦相手となる投手の右、左により大きな偏りがあるケースが結構多い。実際、MLBのサイトでも対右、対左で成績を分けて閲覧することが出来るくらいだから、これ自体は別段新しい見方というわけではないのだが、オークランドは選手補強に際してこの点に目をつけた。成績をシーズンで平均するとたいしたことのないスコアになるため評価(と給料)が低く埋もれているが、実は相手投手が右/左投げのときだけは超一流の打者になるというタイプの打者を集め、1つのポジションにその手の打者2人を起用して使い分けることにしたのだ。出場試合数が少ないため個々人の給料はそれほど上がらないが、よく考えるとものすごい高給取りの打者が1人いる状態になるのでチームはとんでもなく強くなる。急いで補足するが、これ自体はプラトゥーン起用といって昔からよくあるやり方ではある。しかし、普通はレギュラーが決まらないポジションで仕方なく採用するのがこのシステムであり、シーズンを通じて複数のポジションでこれを徹底的に押し進めるようなケースはあまりなかった。

この戦法は2013年も継続しており、一塁、二塁、指名打者、捕手でこのシステムが採用されている(昨年と違って外野手は固定されるようになった)。また、象徴的だったのがシーズン前のトレードだった。外野手がダブついたワシントンが急遽マイク・モースの放出を決めた際、このヘラクレスのような体格の強打者モースを獲得する資金など持ち合わせていないはずのオークランドが全然関係ないのにしゃしゃり出て、ワシントンはモースをシアトルに送る代わりにオークランドの若手3人を獲得し(何人かは元々ワシントンからオークランドが獲得した選手だったりする)、シアトルはキャッチャーのジョン・ジェイソをオークランドにトレードしたのだ。実はジェイソは平均値で過小評価される典型のような打者で、左投手は全く打てないが右投手が相手の場合に限ってバリー・ボンズに変身する不思議な選手なのだ。オークランドのGMビリー・ビーンはもう何年もジェイソの獲得を熱望しており、とうとうワシントンの下手な選手補強という偶然のチャンスをものにすることが出来たというわけだ。ジェイソの他にも、極端に左投手に弱いが右投手が相手だとそれなりの成績を残す外野手セス・スミスや一塁手ブランドン・モスを出したり引っ込めたりしながら、例年通りの強力な投手陣に支えられ、いつの間にか今年も首位を走っている不思議の国のオークランド・アスレティックスなのであった。

そう、今年は前半からがっつり首位なのだ。2年前の自分に教えてあげたい。オークランドのファンであることは恥ずかしいことではないのだ、と。

2013年シーズン前の補強で最大のヒットは、なんといってもジェド・ラウリーの獲得だろう。ボストン・レッドソックスのドラフト1巡目という輝かしい経歴を持つ選手だが、骨折などの度重なる怪我や、ディープキスで感染することで知られる奇病、伝染性単核球症により数ヶ月プレー出来なくなるなどひどい目に遭い続けたため、遂にボストンを追われ今MLBでもっともマイナーリーグに近い弱小球団ヒューストン・アストロズでくすぶっていたところを、しつこい交渉の結果、対左投手用の一塁手クリス・カーターらとのトレードでオークランドが獲得した。正直、個人的にはマックス・スタッシという野球一家出身の若手キャッチャーも放出されてしまい残念なトレードではあったのだが、ラウリーの活躍は大方の予想をはるかに上回っている。ショートとしてはリーグでもトップクラスの打撃成績で、両打ちで相手投手の左右に関係なくコンスタントに結果を残す上に長打力もある。これまでの怪我や病気も、衝突による骨折など長引くものではないと判断して大型トレードに踏み切ったオークランドの大勝利だ。同じトレードでついでに獲得したピッチャーは春先にトミー・ジョン手術が決まり早々に脱落したが、もう誰も覚えていないだろう。

今月で非ウェーバーのトレードは締め切りだが、今のところ大きな成果は挙っていない。噂ではジェイク・ピーヴィーの獲得を狙っているというが、確かにオークランドの広い球場ではフライボールピッチャーのピーヴィーには有利だろうけれど、まあきっと資金の面で無理だろう。ネイト・フライマンがそれなりに頑張ってはいるが、右の強打者が欲しいところではある。

そうそう。エリック・ソガードがレギュラーとしての地位を固めつつあるのも喜ばしい。ファンが眼鏡のイラストとハッシュタグ「#nerdpower」を球場に掲げて応援することでも知られる、今時珍しい眼鏡の野球選手である。野球と勉強の両方でアリゾナ州立大学の奨学金を獲得し、決して恵まれた体格ではないのに活躍しているこの選手だが、マイナー時代には三振より四球が多い巧打者で、『マネーボール』でもおなじみのポール・デポデスタがサンディエゴ時代に獲得したことでも知られていた。シーズン当初は右投手専用の二塁手という扱いだったが、次第にプレー時間を伸ばしつつある。

一方、何年もずっと期待の若手だったマイケル・テイラーが、AAAでチーム歴代記録に並ぶ打撃成績を残すものの、つまりそれだけメジャーに昇格しても定着出来ずマイナーリーグに戻って来るという意味でもあるわけで、遂にチームのトップ・プロスペクトにも入らなくなってしまった。しかし、スタンフォード大出身でハンサムな青年でもあり、春先にはサンフランシスコのラジオ局のインターンをしていたくらいから、しゃべりも出来るのできっと引退しても仕事はあるだろう。

リーグの首位を走りながらオールスターにファン投票ではひとりも選ばれない上に監督推薦でも野手は一切選出されないというスーパー過小評価されたオークランドの2013年も、相変わらず見ていて飽きない。

追記:野球が好きならみんなチェックしているMiLBで西武ライオンズから移籍したままAAAに埋もれている中島裕之の動向も一応追いかけてはいるのだが、最近ではショートのラウリーが完全にレギュラーに収まっているので、使いどころがなくなった中島を左投手用の二塁手にするべく起用が続いているようだ。しかし278/341/374という数字を見れば長打力に欠ける以外は悪くはないのだけれど、同じポジションの若手グラント・グリーン(324/378/501)にははっきりと見劣りするので、先に昇格されるのも無理はない。そのグリーンでさえ上では全く打てずに降格になったのだから、まだまだ厳しいだろう。$6.5mの契約は来年まで残っているので、メンタルの強さに期待するしかない。チームは打てる右の内野手を渇望しているので、頑張ってほしい。少なくとも、打撃不振で降格の際のオレ様発言連発ですっかり不遇になったジャマール・ウィークスよりはるかに多くのチャンスがあるはずだ。

2012年後半のオークランド・アスレティックス

前半はこちら

前半戦のレビューにもあるように、勝率5割で大喜びされるのだから、今年のオークランドは全くどこにも誰にもこれっぽっちも期待されていないチームだった。テキサスが独走するアメリカンリーグ西地区で、せめて2位になってくれたらと淡い期待を寄せるのは、相当な身贔屓のファンだけだっただろう。

しかし、後半戦になってチームに変化が起きた。まず、この数年全く改善されなかった長打力が劇的に向上した。後半戦だけ見ればヤンキーズを(わずか1本だが)上回る本塁打数で、112本というのは最下位のマーリンズの57と比べればほぼ2倍、前半のアスレティックス自身が83本だから、どれだけペースが上がったかわかるだろう。代償として三振の数が前半戦の670から急上昇して704とこちらもMLB全体でダントツの1位となった。長打率も4位とこちらも上出来だったが、出塁率は15位、打率は17位なので、ようするにひたすら振り回すチームに変貌を遂げたということのようだ。XBHも2位のミルウォーキーに18ポイントも差をつけている。GO_AO(ゴロ/フライ比率)も0.87と他の追随を許さない(1.0を下回ったのは他には極端にバッター有利なホームグランドで長打を狙い続けるホワイトソックスだけ)。ひたすらお空に向かって打ち上げ続けた証拠だ。

もちろん、スタイルなんてそう簡単に変わるものではないので、後半戦から加わった新しい選手の影響は非常に大きかった。奥さんが双子を出産するというのに、契約で守られておらずウェーバー公示されたキラ・ミカ・カーイフーエ(無事どこからも声がかからず今はA’sの3Aにいます)と入れ替わりでMLBに上がってきたことで個人的にはちょっと色眼鏡で見ていたブランドン・モスが、最終的には21本塁打、OPS954というとんでもない成績を残した。これがA’sの選手にもたまにある例のお薬のせいでなければ本当に素晴らしい。また、未完の大器と慰められつつもうそろそろ後がないまま今年を迎えたクリス・カーターも、基本的にはモスと一塁手を併用ながら、共にキャリア最高の年を過ごしたのも大きい(こちらは元々とんでもない体格をしているので薬物の影響は考えにくい)。二人合わせて37本塁打なのだから、高給取りの一塁手が一人いるようなものだ(カーターがブレークしたのだから、マイケル・テイラーがいないことが余計に心残りではある)。今年のチームは選手の併用が非常に効果的で、DHと外野手としてツープラトンで起用されていたジョニー・ゴームズセス・スミスが合わせて32本塁打と、こちらも高給取りのDHが一人いるような成績を叩き出している。まあ、厳密には全員同時に出場したりすることもあるので完全なツープラトンではないのだが、それにしてもその効果は絶大である。また、スコット・サイズモアの膝じん帯断裂という大怪我もありキャッチャーから三塁手に転向するという整形手術並みの大決断をしたドナルドソンが、前半こそやはり慣れないのか打撃不振で降格したものの、トリプルAでは4割の打率を残し、肩を脱臼したインジに代わって後半に再昇格してからは大活躍して、終わってみれば後半戦だけみればスコット・ローレンやエリック・チャベスといった他チームの錚々たる三塁手に混じっても引けを取らない成績を残した。ドナルドソンの昇格までは、デトロイトでこの数年不振でポジションも失っていたブランドン・インジをウェーバー公示で拾い上げたらかつての長打力を取り戻して活躍したというのも大きい。ヒックス、モス、インジ、マッカーシーという、ドキッ、ブランドンだらけの野球大会といった趣もまたよい。高木、大島、中島の3人のひろゆきを揃えたかつての西武ライオンズを彷彿とさせる。

ところで、面白いのが、逆に見ると投手もフライアウトが多いのが目立った。MLB全体で投手のGO_AO比率が最も低い、ようするにフライアウトが多いのだが、これはファールグランドが異様に広く、また外野も深くフェンスも高いホームグランドの特性が活きたのだろう。ついでにいえば外野にはセスペデスクリスプレディックという名手が並んでいるのも大きい。クリスプの送球のひどさはともかく、レディックは捕殺数で全体2位(上にはフランコーアがいるもんで)、RFで4位と立派な成績。相手打者のOPSは年間で全体5位、WHIPが6位なのだが、奪三振数が全体で26位のチームなのだからこちらも上出来だろう。守備は相変わらずエラーが多い(FPCTが全体23位)が、DERが5位なので案外悪くないのかもしれない。

つまり、2012年のオークランド・アスレティックスは、いつものように投手力は非常に強力で、打つ方は確率は低いが当たれば飛ぶから接戦にもつれ込めばなんとかなる、そんなチームだった。前半こそクローザーをバルフォア、フエンテスで競わせたらどっちもコケてしばらくルーキーのクックで回したら疲れが見えて登板するたびに長打を食らってどうなることかと心配させたが、給料泥棒のフエンテスを彼のプライベートジェットで帰宅させてクビにしてからはバルフォアも安定し、オールスターに唯一選出されたクックがチームに戻ったら神通力がすっかり剥げ落ちた穴を埋めていた。さらには、ジャバ・ザ・ハットのような風貌でダルマのような体でも39歳でMLBで先発ローテーションに入って活躍出来るという夢のような話を実現させていたバートロ・コローンが実はそんなのやっぱり夢でドーピングに引っかかって前半戦でいなくなってしまったのだが、そちらの穴はダブルAから上がってきた二人の新人、A.J. グリフィンダン・ストレイリーがうまくはまった。どちらかというとグリフィンの方が注目されていたのだが(それでもどのトッププロスペクト特集でも名前は挙ったことはない)、ストレイリーもマイナーリーグで最も高い確率で三振を奪っているピッチャーとして突然注目され、遂にはMLBデビューを果たした。まあ、でも、うーん、評判ほどのコントロールはとうとう見られずじまいで、力量を発揮するにはもう少し時間がかかるかもしれない。ケガ人が続出するのも例年のA’sの慣習だが、今年はその中でも特にひどいことが起きた。2位を争うエンジェルズとの試合で、先発ローテーションに残っていた唯一のルーキーではない投手だったマッカーシーが頭部にライナーの直撃を受けて頭蓋骨骨折、即手術という大怪我を負ったのだ。ちなみに、手術明けにTwitterで元気な様子でつぶやいていた彼は退院のときに誰かに3Pしないか誘われたようだが。いずれにせよ、以降のA’sの先発ローテーションはなんと全員ルーキーとなり、その状態は24歳のアンダーソンがトミージョン手術から1年振りに復帰する9/19まで続いた。ついでにいえば、最初に穴埋めで上がってきた非ルーキーにして地元の星タイソン・ロスは2勝11敗と惨憺たる成績で来年以降の去就さえ危なくなっている。最年長のブラックリーが28歳にして実はこれまでのMLBでの通算登板数を調べたらルーキー資格を持っていたのが、それが発覚したのがRookie hazingの翌日だったのが趣き深い。ちなみに牽制が非常に上手なこのブラックリーがいるお陰で、チームが牽制で取ったアウトの数はMLB1位タイである。

まあ、とにかく、A’sはこの強力な投手陣をどう活用するのかに苦心したのだろう。その結論がこうなのかどうかは知る由もないが、唯一安定感のあるルーキー、セスペデスを中心に長打を狙ってひたすら振り回すスタイルであれよあれよと勝ち上がる姿は感動的だった。ポストシーズンを含めて年間15回もサヨナラ勝ちしたこのチームの試合は、どれも文字通り最後まで目が離せないのだ。そして、連勝連勝で首位テキサスとの差を縮め、スターだらけのこの金満チームから最終戦で遂に6連勝で首位を奪い逆転優勝したのだから驚いた。驚きすぎてもう何がなんだかわからない。この数年のアスレティックスは、かつての自身に追いかけ回される呪われた海賊船のような状態だった。マネーボールが話題になったのはいいが、お陰で似たような戦術を採用するチームが増え、カモだったレッドソックスから泥棒のようなトレードを成功させることもかなわず、代理人たちはA’s好みの選手の売り先が増えたので強気で交渉するようになる。チームのケミストリーなど信じないというGMなので、明らかな腰掛け契約の選手でも喜んで獲得するが、代理人が喜んで失禁するだけのそんなプランではうまくいくはずもなく、プレーオフ進出が絶望的になる後半にその手の選手を放出するととたんに成績が向上するのもいつものこと。だが、今年は違った。まあ、たぶん単純に交渉に失敗しただけなのだろうが、久しぶりのポストシーズン進出のチャンスなのに、遂に非ウェーバーのトレード期限までにトレードはなく、ウェーバーでショートのドリューを獲得しただけで、マネーボールにも書かれていたお得意の前半と後半で違うチームに化ける戦術も採用しなかったのだ。結果的に、結束を固めたチームには変な踊りが流行し、強者のように戦い強者のように勝ってしまった。その一方でリーグのライバルであるエンジェルズときたら、年初にウィルソンとプホルズを補強したのに、今度はさらに多額のディズニーマネーをぶち込んでザック・グレインキーまで獲得したのだから対称的だ。なぜかテキサスは明らかに不足している先発ローテーションに高給取りだがそれほど活躍するわけでもなさそうなデンプスターのみの補強にとどまり、これが後を引いて最後はA’sに逆転を許してしまった。ついでにいうと、イチローを遂に放出したシアトルの躍進は凄まじく、予算も楽になったのでひょっとしたら来年は結構やるかもしれない。

2006年以来となるポストシーズンは、しかし残念ながら2-3でデトロイトに破れてしまった。その内の二度はヴァーランダーが相手だったので仕方がない。特に勝てばALCS進出という最終戦では、相対的に弱いブルペンをカバーするためヴァーランダーが120球以上も投げて完封したのだから恐れ入る。しかし、そのデトロイトにしても、ヴァーランダーに加えて三冠王に輝いたミゲル・カブレラとプリンス・フィールダーといった超高給の選手を何人も抱えたチームであり、それとガップリ組んで一歩も引けを取らなかったのだから、それはそれでとんでもないことではないか。よくある言い回しに「弱いチームには弱いなりの戦い方がある」というものがあるけれど、たまたま一試合かそこらを勝つのではなく、それでMLB全体でも特にレベルの高いリーグを制するのだから、素晴らしい。マネーボール2が出来るとしたら、かつての自分たちの栄光に呪われながら、それを断ち切ったとんでもなく面白い物語になるだろう。

来年の話をもう始めるのもおかしいかもしれないが、今年のチームはそもそも無理なくMLB30チーム中29位のいつものポジションでペイロールを抑えていたこともあり、基本的にはほぼそのままの形で来年も残るといわれている。フリーエージェントになる主な選手はジョニー・ゴームズ、ブランドン・マッカーシー、ブランドン・インジにスティーヴン・ドリューだが、ドリューは来年から1,000万ドルプレーヤーになってエージェントのボラスをますます太らせる予定だったのが不調のためアリゾナから放出されたこともあり、来年そのオプションをA’sが行使することはまず考えられない。頭蓋骨骨折と脳の周囲が腫れ上がって手術を受けたマッカーシーとゴームズはおそらく残留とみられている。インジは不透明だが、ドナルドソンの台頭やスコット・サイズモアが復帰するためサードは難しいかもしれない。だが、いずれにせよ今年のチームのコアは残ったままだ。セスペデスを中心に、あと何年かはやってくれそうなチームが出来上がりつつあるのは楽しみである。しかも、来年からはイチローを放出して弱体チームを卒業しようとしているシアトルに代わり万年ビリ候補としてヒューストンがリーグに編入されることが決まっている。ここらでがっつり稼いで、来年こそはポストシーズンでの活躍を期待したい。

っていうか、こんな強者っぽい振り返りレビューが書けることになるなんて思ってもみなかった。うれしい。とにかく素晴らしい。

2012年前半のオークランド・アスレティックス

今年のアスレティックスの期待されなさ加減は半端なものではなかった。これからキャリアのピークを迎える20代前半か半ばの実績ある先発投手二人とクローザーをあっさり手放し、怪我も多くバッティングの安定感と送球に問題を抱えるココ・クリスプと再契約して、獲得したフリーエージェントの選手は左投手が全く打てない上にキャリアの数字のほとんどがコロラドのボールがよく飛ぶ球場で底上げされているセス・スミス、当たれば飛ぶけど当たらないジョニー・ゴームズだったのだから仕方がない。

風向きが変わったのは、どんな手を使ったのかわからないがマイアミと契約すると見られていたセスペデスと4年契約を結んだあたりからだ。このキューバの亡命選手は25歳と若く、もちろんMLBでの実績はないが高い身体能力とWBCでの活躍で十分に期待させてくれる上に、4年で36ミリオンとレギュラーの外野手としてみればそれほど高年俸でもないのが魅力だ。もちろん、ココ・クリスプの要らない感が余計に目立つことにもなったが。他にも、当然活躍するとみなされていたパーカーライアン・クックのような投手に隠れて、実はトレードの目玉であるA’s好みのピッチャー、トミー・ミローンの獲得も大きかった。特に目立つ球種もなくスピードも日本人の平均的な投手とほとんど変わらないミローンだが、コントロールがいいので制球に気をつけていれば投手に極端に有利なホームグランドでは強い。アウェイでは極端に成績が落ちるので勝ちと負けの数が拮抗しているが、10勝以上は望めるスコアを叩き出している(前半戦8-6)。このまま何年かホームで実績を上げていけばトレードのいい餌になって、相手方が実は球場の恩恵で活躍していただけだと気付いた頃には有望な若手をかっ攫われていることになるだろう。

ビリー・ビーンの悪魔的トレードの才能は今年はボストンを標的にしていたようだ。イエール大学出身の統計を重視したいわゆる新しいタイプのGMだったエプスタイン(ビリー・ビーンに憧れていることを公言していたらしい)がシカゴ・カブズのプレジデントに引き抜かれて退職した隙を狙い、後任が間抜けなのを知ってオールスター出場経験者のクローザーであるアンドリュー・ベイリーと好守巧打の外野手ライアン・スウィーニーを献上したが、これがインチキ中古車ディーラーもびっくりの酷い手口だった。ベイリーは肘に故障があり毎年2ヶ月以上は休む怪我人、スウィーニーは治らないであろう膝の怪我を抱えているので才能はあるがパワーもなく控えで終わるだろうという、大変残念な面子なのだ。幸いスウィーニーは持ち前の打撃センスでそこそこ活躍しているようだが、ベイリーはとうとう手術のため今シーズンの出場はなくなった。そしてビリー・ビーンが獲得したのは、去年半分レギュラーの外野手だったジョシュ・レディック。今年は打率こそ低いが今年は前半戦だけで20本塁打を放ち、打者に不利なオークランドでも存分にその力を発揮している。また守備も良く肩も強いので捕殺が多く、サヨナラ打の後でチームメイトに2度も飲料を浴びせられた後にシェービングクリームのパイ投げ攻撃を食らってもタオルで拭きもせずそのままインタビューに答え続けるノリの良さですっかり人気選手の座に収まっている。実はビリー・ビーンは2008年からジョシュ・レディックを狙っていたらしく、エプスタインは辞めた後にトレードが決まったレディックにそのことを教えてあげたらしい。いい人だ。

トレードの表の目玉であるパーカーがそれなりの活躍でローテーションに定着したのに隠れて、実はA’sにとって大きい補強が今年実を結ぼうとしている。2007年からA’sのキャッチャーとして活躍してきたカート鈴木が、契約の関係で来年から年俸が跳ね上がることになっているので、A’sの財政状況から再契約は難しいかもしれない。そのため、後任のキャッチャーの補強が必須なのだが、これまでランドン・パウエル、ジョシュ・ドナルドソン、アンソニー・レッカーなど多くが挑戦して結果を残すことができなかった。しかし、今年ジオ・ゴンザレスを放出した見返りに獲得したデレク・ノリスがトリプルAで急速に打撃成績を伸ばし、数年後と見込まれていたMLBへのデビューを果たしたのだ。しかも、出場二試合目でサヨナラ3ランを放つなど活躍も華々しく(打たれたのは数年前までA’sに所属していたがそのとき年齢と名前をを詐称していたのがバレたサンチャゴ・カッシーヤ)、まるでカート鈴木のデビューのようだ。またサンフランシスコをクビにされたところを獲得したブラックリーとの相性が良く、とうとうブラックリーもローテーションに定着してしまったのもうれしい誤算だ。

オールスター級の先発二人とクローザーを放出して誰からも期待されていなかったA’sの投手陣だが、蓋を開けてみれば今年も素晴らしかった。先発ローテーションは去年WHIPではリーグ2位のマッカーシーを先頭に、現在は中年の星コローン、パーカー、ミローン、ブラックリーと続き、さらにはグリフィンという去年までダブルAにいたピッチャーが3度の先発で結果を残すなど非常に安定しているわけだが、このうちの4人はほぼメジャーでの実績がないのだから驚きだ。とうとうブライアン・フエンテスをクビにしたブルペンも充実しており、来年年俸調停権を獲得するブレビンズをいい感じに酷使しながら、今年から投手に転向してシングルAから再出発したと思ったら26イニングで40以上の三振を奪いそのままメジャーに昇格したショーン・ドゥーリトル(MLBでも14イニングで24奪三振だからバケモノ)、A’s枠としてクローザーのために毎年確保されている枠を使ってオールスターにも出場したライアン・クック、サンフランシスコの選手のようなヒゲでポピュラリティに変化があるかどうか計測中のジョーダン・ノルベルトといったこれまた実績がぜんぜんない選手たちが鬼のような活躍をみせている。

そして、なんとA’sは数年ぶりに前半戦を勝率.500で折り返したのであった。おそろしい。あの貧乏若手チームがワイルドカードまで2.5ゲーム差につけているのだ。今年の後半戦は久しぶりに「再建」モードで有望選手の放出祭りになるのではなく、プレーオフを目指して補強するモードになりそうである。

そうそう、ココ・クリスプがバッティンググローブを使うようになって最近よく打っている。やれば出来るんじゃないか。

2011年のオークランド・アスレティックス

この数年(2009はこちら2010はこちら)、何の希望もないままシーズン開幕を迎え続けているオークランド・アスレティックスだが、2011年はちょっと違っていた。まず、先日FAになった途端に女関係の悪行がバラされてざまあみろな岩隈の獲得を目指すついでに、もう先は見えたけど若いからまだ獲得に名乗りを上げるチームがあると見越して先発マッツァーロを放出、見返りにカンザス・シティから怪我で安くなっていたデヴィッド・デヘススを獲得した。それからジェイソン・ワースに大金を注ぎ込んだ愚かなワシントン(案の定ワースは今年ダメだった)から弾き出された長打力と選球眼に優れたジョシュ・ウィリンガムを安値で獲得したのはビリー・ビーンの真骨頂だった。岩隈の獲得には失敗したけれど、怪我のためテキサスで出場機会に恵まれなかったブランドン・マッカーシーを獲得してただでさえ分厚い先発投手陣はさらに厚みを増した。怪我で途中出場できない時期もあったが、終わってみればそのマッカーシーの投球内容がリーグでも屈指のものだったのはうれしい誤算だ。ついでに、選球眼に優れた長距離打者で選手寿命の黄昏時というオークランド好みの選手になった松井も安値で獲得、これで外野手とDHは揃った。選手たちが例年通りくらいの成績をあげれば、ひょっとしたらプレーオフも夢ではない、かもしれないくらいの期待をもたせてくれる陣容だ。内野は2010年にリーグ屈指の高い出塁率と一塁手としては例外的に長打力のないことでも注目されたデイリック・バートン、相変わらず守備の素晴らしいマーク・エリス、元ドラ1で多少荒っぽさもあるけど強肩の守備が魅力的なペニントン、長打力が期待されるクーズマノフという面子。これに不動のキャッチャーとなったカート鈴木、高出塁率が期待されるコナー・ジャクソン、未来のスターといわれ続けたままだが今年は膝の手術からの復帰を目指すライアン・スウィーニーを加えたメンバーは、それなりにやってくれそうな気がしないでもなかった。

4月中に夢を砕いてくれたのは、せめてもの優しさだったのだろうか。蓋を開ければ、キャリア最低の成績に終わった松井とデヘスス、あまりにお粗末な成績に最終的には放出されたジャクソン、トリプルA送りとなったバートンとクーズマノフと死屍累々たる有様。とうとう開幕戦に出ていた内野手はシーズン途中にはペニントンだけとなってしまった。スウィーニーはパワーの無さだけが目立ち、ココ・クリスプはやることがないからだろうか、ひたすら盗塁し続けた。おまけにシーズン途中で監督もクビになった。それだけではない。ピッチャーにしても、長期契約を結んだ途端に1年以上リハビリが必要な怪我をしたブレット・アンダーソン、同じくシーズンを棒に振ってしまった昨年の完全試合男ダラス・ブレイデン、相変わらず2ヶ月くらい怪我で休むクローザーのアンドリュー・ベイリー、中継ぎで8敗という前半戦最強の壊し屋っぷりを見せつけたブライアン・フエンテス、もう何の怪我か忘れたけどとにかく離脱した先発のタイソン・ロスなどなど、たぶん呪いとかの超自然的現象でいいんじゃないかと思うほどの惨状だ。

もちろん、悪いことばかりではない。ウィリンガムは前半こそひどい成績だったが、ただでさえバッターに不利なことで有名な広い球場をホームグランドにして、終わってみればキャリアハイの29ホームランだったのだから立派なものだ。これでサラリーが跳ね上がり再契約できなくなって他所のチームにかっ攫われることになる(2012年からはミネソタで長期契約となった)のを考えなければ、とても素晴らしい。そして怪我ばかりの兄リッキー・ウィークスと同じくずっと怪我に苦しんでいたジェマイル・ウィークスが華々しくデビューを飾り、そのまま好成績で年間を通した活躍した(その結果チーム在籍年数が最も長かったマーク・エリスが放出されてしまった…)のも明るい話題だ。もっとも、負け続けて起用されるようになった若手が増える中、この数年で最も期待されているクリス・カーターマイケル・テイラーが全くメジャーでは通用しないことも分かったのだが。まあ、他にもトリプルAで素晴らしい成績を叩き出したギレルモ・モスコソがメジャーでも十分活躍できることもわかり、それから遂に公開された映画『マネーボール』は批評家ウケもいい手堅い出来だった。

オークランドの迷走の原因といわれているのが、本拠地の移転問題が解決していないことだ。数十キロ離れたサンノゼにシスコシステムズから提供された土地があり、そこに球場を建設して移転する計画が持ち上がってからもう何年かになるが、2012年の1月まで決着がついていない。サンフランシスコ・ジャイアンツのフランチャイズでもあるので、その辺りの問題が解決していないせいだというが、どうやら今年結論が出るという噂である。そうなると、移転は2014年ということになり、その時点までに強いチームを作るという本当の再建モードになるわけだが、この冬の大胆なトレードをみるにつれ、どうやら本当に今月には移転問題の決着がつきそうな感じだ。

というわけで、2012年からのオークランド・アスレティックスは、今年と同じかそれ以下の期待しか出来そうもない。噂はあったが、本当にオールスターに選出された経験のあるピッチャーを全て放出してしまい、放出した選手もみんなまだ若かったが、それよりさらに若い選手ばかり揃えたところなど、むしろトリプルAやダブルAの試合の方が面白いんじゃないかと思わせるくらいだ。

といいつつ、でもそんなトレードで獲得したジャレッド・パーカーは実は次のダン・ヘイレンになるんじゃないか、トム・ミローンはダラス・ブレイデンあるいはもっと凄くてトム・グラヴィンみたいになっちゃうんじゃないか、などと妄想をたくましくしてしまうのが、ファンというものでもある。

「マネーボール」その後

いよいよ映画化される「マネー・ボール 」だが、当時の登場人物たちのその後はどうなっているのだろうか。

ブラッド・ピットがその役を演じるという、主人公たるビリー・ビーンは、今もオークランド・アスレティックスジェネラルマネージャだ。一方、その右腕として活躍する統計屋ポール・デポテスダはドジャーズのGM、パドレスのスタッフを経て今年からニューヨーク・メッツのフロントに入ると発表された。なんと、メッツのGMはかつてビリー・ビーンの上司でもあったサンディー・アルダーソンセイバーメトリクスをいち早く導入したことでも知られるオークランド・アスレティックスの元GMだ。それだけではない。元ビリー・ビーンの同僚でトロント・ブルージェイズの再建を託されたJ・P・リッチアーディも今ではメッツのスタッフとして勤務している。

上のリンクのほとんどがWikipediaであることからもわかるように、マネーボールの当事者たちはこの10年で一定の評価と知名度を獲得している。パドレスはプレーオフ進出まであと一歩のところまで勝ち進み、パッとしないように見えるブルージェイズも実はこの8年間の成績をみると5回勝ち越しており、その内2度は10以上の貯金まである。同地区にレッドソックスとヤンキーズ、レイズという強豪を抱える悲惨な境遇にしては上出来といえる。ボルチモアが負けすぎるのも悪いといえば悪いのだが。

その一方で、我らがビリー・ビーンはというと、2007年以降続いた負け越しこそ免れたものの、2010年は首位テキサスに大きく水をあけられた2位、2006年を最後にポストシーズンへの進出は果たせていない。かつては冷遇されていた統計情報重視、セイバーメトリクスを球団運営に取り入れたいわゆる「新思考」のチームが勢いを増す一方、その先駆者としてのアスレティックスは近年、かつて標的にしていた古くさい野球の常識に加えて、新たな傾向であるセイバーメトリクスを駆使したチームにも対抗する必要が生じている。つまり、自分たちの影に追われてきたのがアスレティックスのこの3年間だったといえる。

よくある誤解に、セイバーメトリクスを利用した評価こそが低予算で最も強いチームを作る方法だというものがある。もちろん、それは嘘で、選球眼と長打力がトレンドであるなら、選手の代理人たちはこのふたつの能力を備えた選手を高く売ろうとするのは自明だ。そうなると、当然ながらオークランドのような低予算のチームでは理想的な選手をそろえることは難しくなる。だいいち、どんな指標を適用したところで、全盛期のデレク・ジーターアレックス・ロドリゲスは非常に高いスコアを叩き出していたのだ。元来、統計情報を駆使するのは、他球団が見逃している選手を発掘し、低予算でも勝つための手段であった。だから、周囲が同調するのであれば自分たちは急いでそのトレンドの裏をかく必要がある。そんな涙ぐましい努力こそが、ハードな野球ファンを喜ばせるのだ。

ここ数年のオークランドの選手の特徴として、まず目立つのが、かつてはどうでもいいとされていた守備能力の重視と、走力の向上だ。セイバーメトリクスがMLBを席巻するにつれ、選球眼のいい長距離打者の価格は跳ね上がっている。一方で軽視されているのが守備と走塁であり、どうやらアスレティックスは近年、この二つを利用して対抗するプランを模索しているようだ。盗塁数ではリーグのトップ20に3人が入り、移籍して来ると決まって生まれて初めて守るポジションにされる(スコット・ハッテバーグがファースト、レイ・ダーラムがセンター)と悪評高い守備の軽視も改善され、ゴールドグラブ級の選手が半数以上を占める日もある。マーク・エリスケヴィン・クーズマノフの守備が過小評価されてタイトルを取れないのは、おそらく所属チームのイメージが悪いせいだろう。

それに、かつて超高校級のスターとして華々しくプロ入りしたものの、次第にやる気を失っていった自分への反省から、大学卒業者しかドラフトで指名しないという方針でドラフトに臨んでいたビリー・ビーンの主義も撤回されつつある。2008年に18歳のYnoa(またはInoa)とラテンアメリカの新人として最高額で契約(あー、今年トミー・ジョン手術を受けました)した他、今年は18勝してオールスターにも選ばれ大ブレークしたトレヴァー・ケーヒルも高校生でドラフトされた。さらには、今年はなんと16歳のドミニカ出身の外野手と契約したとも報道されている。

このような戦略の転換が、果たして長期的なプランに基づくものなのか、それとも各チームがかつてオークランド・アスレティックスが採用し高い実績をあげたその戦略をパクり、磨き上げてきたのに追いつめられて足掻いているだけなのか、実際のところはまだはっきりとはわからない。だが、今のところ徹底して守備がよく足の早い選手を集めているのは間違いない。どんな素人からも長打力不足を指摘される状況で、岩隈を競り落としたお陰で余った先発候補を放出し、交換相手として獲得したのも俊足、好守のデヘススだった。相変わらず強力な投手たちをどのように活用していくのか。2011年に向けた補強が始まり、メッツの再建が進むにつれ、本家本元としてのアスレティックスの動向には相変わらず要注目なのだ。

2010年のオークランド・アスレティックス

昨年、大物たちを放出して再建モードに入ったところから俄然調子が良くなり、後半の勝率が5割を達成していた不思議の国のアスレティックスは、その教訓を活かして今年に入っても売り飛ばすためだけに取るような大物の獲得はなく、現有戦力の底上げという、弱小チームのくせにいっちょまえな戦略でシーズンに臨んだ。目立った補強は、トミー・ジョン手術で1年のブランクがあるため格安になっていたベン・シーツ、カンザス・シティーで怪我のためほとんど出場出来ず格安になっていたココ・クリスプ、エリック・チャベスが出場できないサードの補強にサンディエゴに兄がいるスコット・ヘアストンを放出して穫ったクーズマノフ。実は最後のクーズマノフのトレードには別の秘策が隠されていたのだが、それは後述する。というわけで、今年の補強は非常に地味だった。

一方、どんなに頑張って選手を揃えてもいつものように大盛況だったのが故障者リストで、今年戻る予定だったジョーイ・デヴァインとジョシュ・アウトマンは帰らず、鬱病からの復帰が期待されたデュークシェラーも好調な出だしから一転ケツの手術で以降は戻らなかった。コナー・ジャクソンも故障品を売りつけられただけに終わり、トラヴィス・バックもフェンスにぶつかった後遺症による謎の頭痛というイヤな理由でリストに入り浸り、そして元ロッテのマット・ワトソンに至っては独立リーグを経て念願のメジャー復帰がかなったその月に結石で入院という悲惨な結果に終わったのだ。悪い話は続く。前半こそ小気味よくホームランを放っていたカート鈴木(キヨシくん)は終わってみれば過去3年間で最低の打撃成績となり、今年から年鑑の1ページ丸ごと使って紹介されるスターになる予定だったライアン・スイーニーは手術で脱落、昨年の打率3割のデイヴィスは今年は出塁率3割で終わりそうだ。

だが、われわれファンの心に最も重くのしかかったのは、チームの最高のスター選手であるエリック・チャベスがいよいよダメだという事実である。今年はチャベスがファーストミットを持ってDHと一塁を守ることになっていた。つまり、ゴールドグラブを何度も獲得していたこの名手が度重なる故障により遂にもうサードは守れないという事実を受け入れたのだ。チャベスの怪我はそれほどまでに深刻だったのか。2年のほぼ完全なブランクから、ようやくバットを振れるまでに復調して臨んだ今シーズンだったが、しかし結果はひどいものだった。最終的には、夏を待たずにDL入りして、そのまま契約最終年のシーズンは閉幕してしまった。このまま引退は避けられないだろう。年俸10億円を2年続けてドブに捨てることになったチームの財政事情よりも重たい現実である。

アスレティックスに決定的に不足しているのは、中軸打者である。年間20本塁打を期待できるバッターが皆無では、どうしても見劣りする。強力な投手陣が揃うだけになおさら深刻だ。

ピッチャーは相変わらず素晴らしかった(ヤンキーズみたいなチームが相手でもなければ)。今年大ブレークしたのがトレヴァー・ケーヒル、通称ホワイトラビット、突如として高校生をドラフト上位で指名するという方向転換を見せたアスレティックスが去年2Aから大抜擢した右ピッチャーだ。高校3年でピッチャーに転校したというこの22歳は、それほどの豪速球があるわけでもないが、とにかくひたすらシンカーを低めに集めてゴロを打たせる投球が身上だ。シーズン前は「高めに浮くとホームラン」と評される程度の期待しか集めておらず、それどころか開幕時点で故障者リストに入ったいたのだが、蓋を開けてみればなんと20試合連続で相手を6安打以下に抑えるというノーラン・ライアン以来の大変地味だが感じのいい記録に並んでしまったのである。

ケーヒルのお陰でかすんでしまったが、ジオ・ゴンザレスの成長にも目を見張るものがある。コントロールが悪い悪いと言われ続け、まあ実際今年も2イニングに1つは四球を与えているわけだが、それでも、まあ、その、それくらいにはなったので、奪三振163、二桁勝利に防御率3.35という成績で一年間ローテーションを守り続けた。それから、母の日に何かイベントがあったらしいが、それ以降長い長いトンネルに入ったまま出て来られなかったダラス・ブレイデンも、これで中継ぎ稼業に戻ることはないだろう。

そう、いま勝てなくて若い選手が多いので、未来の展望だけはやたらと明るい。大砲クーズマノフ(なんといっても今年はチーム1位のホームラン15本!35じゃないよ!45でもないよ!)を獲得した比較的大きなニュースの陰で、実はアスレティックスは未来の秘密兵器を獲得している。エリック・ソガード、アリゾナ州立大出身の内野手である。近年々のジャリーガーを排出しているアリゾナ州立大学はチビの内野手の量産体制に入ったらしい。何が素晴らしいかというと、今年のトリプルAの成績をみるとこのバッターはほぼフル出場して三振より四球の方が多く、出塁率が非常に高い。そして眼鏡をかけていて公称177cm、たぶん170そこそこという小さい選手なのでほとんど他のチームから目をつけられない(そんな選手をドラフトで穫ったサンディエゴは偉い、さすがポール・デポデスタ)。世界で一番地味で過小評価されている(からアスレティックスにいる)名手マーク・エリスもこのところ怪我が多く、年齢的にももうすぐ下り坂になる。次代の地味な名手としてソガードには要注目だ。

そして、いよいよである。デヴィッド・ジャスティス、フランク・トーマス、マイク・ピアッツァ、スコット・ハッテバーグ。アスレティックスが得意とする、選球眼に優れたかつての大砲、落ち目になったスターを指名打者として1年かそこいら使って長打力不足を補い、かつこの世界で長生きしたけりゃボールを選べと選手たちに教えるための生きた教材としてベンチに置くという戦略に、ちょうどぴったりな選手が、度重なる怪我によりついに金満球団から放出されようとしている。

というわけで、来年もアスレティックスは要注目だが大変地味である。

ダースまめの野望

「ダースまめ」は考えました。

ぼくもライトセーバーがほしいな。

思い立ったらすぐ行動、それが暗黒卿の生きる道です。

しめしめ、お母ちゃんは見当たらないぞ。

これはライトセーバーかな?

やったあ、ライトセーバーをゲット(たぶん)だ!

ご満悦の暗黒卿。

こうして、宇宙を征服するはずの暗黒卿「ダースまめ」は、すっかり野球選手になってしまいましたとさ。

2009年のA’sを振り返る

そろそろシーズンも終わって時間も経ってので、一年を振り返ってみよう。東海岸ではまだ何か続いているようだが、きっと時差のせいだろう。

惜しくも栄冠は逃したものの見事四位入賞を果たしたオークランド・アスレティックス。しかも後ろのチームはその姿さえ見えないくらいのぶっちぎりだ。あまりの人材不足から右も左もわからない新人投手が先発した試合の数はメジャーリーグの記録を打ち破ることになった。また、チームは個人に優先するとはいえ、個人記録にも素晴らしいものがあった。最多敗戦投手ランキング上位20位に2人が入選、いずれも二桁の数字を残しての達成である。カート・スズキが今年も安定した成績を残し、マーク・エリスが一度だけ週間MVPを獲得したり、後半戦からレギュラーになったラジャーイ・デイヴィスが打率3割(規定打席不測)を達成するなど、明るい話題もなくはないが、逆にこれらの「ちょっといい話」以上に明るい話題は、せいぜいマット・ホリデーを高値で売り飛ばして期待の若手選手がわんさか獲得できたり、センスは誰もが認めるが結果がついてこないためルール5ドラフトでレイズをお払い箱になったアダム・ケネディーを拾ってみたらなんだか俄然やる気を出して.285くらいの打棒をふるった他、長期契約したチームの期待を裏切りつづけてレギュラーを剥奪されたボビー・クロスビーが内野ならどこでもこなせるユーティリティとして意外な活躍をみせたりしたくらいか。

春先にチームに帯同していた大物たち、オーランド・カブレラ、ジェイソン・ジアンビ、マット・ホリデーは夏を前に早々に消え去り、当初の色気は捨ててさっさといつもの「再建」モードになってしまったチームだが、そんな主力選手を放出して迎えた後半戦の方が勝率がいいのが不可解である。移籍先のカージナルスで念願叶って出場したプレーオフにて、マット・ホリデーがチーム全体を観客もろとも奈落の底に突き落とした9回裏2アウトからのエラーが、予言されていたと考えるべきか。そして、ガルシアパーラは人生で何度目かの引退を考えている。